反射率1%以下、薄膜光吸収メタマテリアルを作製:ハスの葉のマカロニ状ナノ構造が光をトラップ
東京工業大学(東工大)大学院総合理工学研究科の梶川浩太郎教授らによる研究グループは、ハスの葉表面に存在するマカロニ状のナノ構造を鋳型に用い、高効率で大面積の「超薄膜光吸収メタマテリアル」を作製することに成功した。太陽電池の効率向上などが期待される。
東京工業大学(東工大)大学院総合理工学研究科の梶川浩太郎教授らによる研究グループは2015年11月、ハスの葉表面に存在するマカロニ状のナノ構造を鋳型に用いて、高効率で大面積の「超薄膜光吸収メタマテリアル」を作製することに成功したと発表した。研究成果を、太陽電池や光熱変換素子に応用することで、更なる効率の改善が可能になると期待されている。
東工大の梶川氏、及び修士課程2年の海老原佑亮氏、芝浦工業大学工学部教授の下条雅幸氏らによる研究グループは、走査型電子顕微を用いてハスの葉を観察した。そうしたところ、葉の表面にはミクロな凹凸のこぶ構造とは別に、こぶ表面に直径100nm程度のマカロニ状のナノ構造が多数分布していることが分かった。
光メタマテリアル作製に向けて、ハスの葉の表面に膜厚10〜30nmの金を被覆した。そうしたところ、照射された光をトラップして外部に逃がさない、光メタマテリアル構造を作製することができた。しかも、この光メタマテリアルは、全ての可視光領域で反射率が1%以下を示すなど、良好な光吸収構造であることが分かった。
研究グループは、ハスの葉以外でも同じように葉を金で被覆して確認した。ところが、ドクダミやヨモギ、サンショウなどの葉では、光をトラップする現象は観測されなかった。このことから、ハスの葉に多数分布するマカロニ状のナノ構造が、光のトラップに重要な役割を果たしていることが分かった。
左上はハスの葉を厚み30nmの金で被覆したメタマテリアル。中央部分は光を吸収し黒くなった。金色に光るのは固定のために使ったテープの表面。右上はハスの葉の電子顕微鏡写真。左下はドクダミの葉を厚み30nmの金で被覆した試料。右下はドクダミの葉の電子顕微鏡写真 出典:東工大
光メタマテリアルの多くは、これまで微細加工技術を用いて作製されてきた。そのため、高コストとなり大面積の光メタマテリアルを作製することは困難といわれてきた。今回の研究では、自然界に存在するナノ構造を利用して、特異な光学的性質を持つ人工材料を作製することができた。これにより多様な性質を持つ、大面積の光メタマテリアルを低コストで作製できる可能性が高まったとみている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 弱い光で磁性が変化する光磁石、東工大らが発見
東京工業大学(東工大) 総合理工学研究科の山本康介修士課程修了らによるスピンフォトニクス研究グループは、コバルト(Co)とパラジウム(Pd)の極めて薄い膜を交互に積層した磁性薄膜が、弱い光で磁性が変化する「光磁石」候補であることを発見した。 - 東工大、ゲルマニウム導入で光るダイヤを開発
東京工業大学の岩崎孝之助教らによる研究グループは、ダイヤモンド中の空孔(V)、とゲルマニウム(Ge)から成る新しいカラーセンターの形成に世界で初めて成功した。生細胞イメージング用のバイオマーカーや量子暗号通信への応用が期待されている。 - 非対称な光学迷彩装置を理論的に実証、透明人間も可能?
理化学研究所(理研)と東京工業大学の共同研究チームは、非対称な光学迷彩を設計する理論を構築した。新たに実証した理論では、外部からは光学迷彩装置内にいる人間や物体は見えないが、内部からは外部を見ることが可能となる。 - 光通信デバイスに「透磁率」の概念導入、光変調器を1/100程度に小型化可能
東京工業大学(東工大)、理化学研究所、岡山大学の研究グループは、光通信デバイスの開発において、これまでの「誘電率」制御に加えて、「透磁率」制御の概念を導入することに成功した。これまでより極めて小さく、高性能なデバイスを実現することが可能となる。