標準化は垂直統合型モノづくりの弱体化を招く?:勝ち抜くための組織づくりと製品アーキテクチャ(10)(4/4 ページ)
モノづくりでは、開発期間を短縮するため、標準化が進んでいる。これにより、産業構造が垂直統合型から水平分業型へと移行している。日本メーカーの競争力が弱くなっていった要因は、この世界的な流れに乗り切れなかったことが挙げられる。
アーキテクチャは事業戦略そのもの
だが、いつまでも昔のやり方にしがみついているわけにはいかない。時代の流れは明らかにデジタルでモジュラーになりつつある。
ここでおさらいしてみよう。第3回に登場した米国のVISIO社は、50型の4Kテレビを10万円で販売し、北米において優位性を保っている。そう、同社が体現しているのが「意味的価値」である。
第1回において、最初に電機企業と自動車企業を対比したことを覚えているだろうか? ……そう、典型的なインテグラル型として見られていた自動車づくりも、デジタル化、モジュラーは進みつつある。そして、クローズド・スタンダードからオープン・スタンダードへと移行している。既に、ECU(Engine Control Unit)周りの基本構造、インタフェースなどはだいぶ前に標準化されている。自動車の場合、製品ラインアップを支える「製品プラットフォーム」は、まさしく標準化の1つである。特にクローズド・スタンダードになりやすいものは、シャーシやエンジンである。例えば、トヨタ自動車の「ヴィッツ」とハイブリッドカーの「アクア」は同じシャーシである。エンジンにおいても同様である。ゼロから開発するよりも、できるだけ流用した方がコストを抑えられるからだ。
その一方で、昨年、ホンダの「フィット」が何度もリコールされたが、これは回生ブレーキのソフトウェアが原因である。また、最近ではVW(フォルクスワーゲン)の排ガス不正問題が発覚して大きな議論を巻き起こしたが、この影響が、膨大な数の自動車、しかも車種が異なる、グループ会社にまで波及してしまうことも、プラットフォームを共有していることが理由だ。標準化を推し進めすぎると、後にトラブルがあった場合の被害がとてつもなく大きくなる可能性もある。考えようによっては、これが標準化の怖さともいえるだろう。
いずれにしても、製品アーキテクチャは、自社の製品が部品なのか、完成品なのかを知り、どの企業と付き合い(製品を納め)、自社なりの有意な立ち位置はどこなのか? と模索することは、事業戦略そのものである。そして、意味的価値や組織能力を含めて考えていくと、本コラムタイトルに組織づくりとあるように、実は経営・マネジメントそのものに行き着くのだ。次回以降は、その辺りにも触れていきたい。
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Profile
世古雅人(せこ まさひと)
工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者として、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。
2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱。技術評論社より『上流モデリングによる業務改善手法入門』を出版。2012年からEE Times Japanにて『いまどきエンジニアの育て方』『“AI”はどこへ行った?』などのコラムを連載。
一般社団法人TXアントレプレナーパートナーズ(TEP)で技術系ベンチャー企業支援と、厚生労働省「戦略産業雇用創造プロジェクト」の採択自治体である「鳥取県戦略産業雇用創造プロジェクト(CMX)」のボードメンバーとして製造業支援を実施中。
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