「A9」に秘められたAppleの狙い(後編):製造プロセスの進化もまとめてみた(2/2 ページ)
後編では、Appleの最新プロセッサ「A9」の詳細をもう少し見ていく。特に、Aシリーズに適用されている製造プロセスの進化には、目を見張るものがある。
プロセスの進化
ここまでは、ダイの実寸法やそこから分かる情報について言及してきたが、ここからは6世代にわたるAシリーズの製造プロセスの進化を見てみよう。
A4は当時最先端のプロセスルールだった45nmで製造された。現在、Samsung Electronics製のA9には14nmプロセスが用いられている。
筆者は、Aシリーズのプロセッサを32nmプロセスに置き換えた場合のダイ面積やCPU面積などを計算してみた。さまざまなプロセスで製造されているチップを、同一プロセスに“換算”することで、回路規模を比較しやすくなるだろう。さて、32nmプロセスに変換してみると、A9のダイ面積は470mm2にもなる。これは、かなりの回路規模だ。当然ながら、A9はこれまでの全てのAシリーズよりも大きくなる。
前出のこの表では、製造プロセスの進化により、同じシリコン面積により多くの回路を搭載できるようになった(あるいは同一機能をより小さい面積で実現できるようになった)ことが、分かりやすく表現されている。ではAppleは、A9に最新プロセスを採用することで“空いた”スペースに何を統合したのか。
一例としてM9が挙げられる。「iPhone 5s」に搭載された第1世代のコプロセッサ「M7」は、NXP Semiconductorsが供給している。M7はApple向けのカスタム品とされているが、これはどうやら事実らしい。M8もNXP製の部品であることが明らかになっている。
Appleが買収したイスラエル企業のIPは?
もう1つ、フラッシュメモリコントローラが統合されている可能性がある。Appleは、フラッシュメモリを手掛ける新興企業であったイスラエルの半導体スタートアップであるAnobit Technologiesを買収したことを2012年1月に認めている。以来、AppleがAnobit TechnologiesのIP(Intellectual Property)をどう利用するのかについて注目されてきた。実は、Anobit Technologiesの技術を使ったのではないかとされるフラッシュメモリコントローラが、2015年春に発売された「MacBook」に搭載されていることが明らかになっている(参考:iFixitの分解記事、Step 14)。同じようなチップが、第4世代「Apple TV」にも搭載されている。Appleが、Anobit TechnologiesのIPを活用してフラッシュメモリコントローラを製造したと考えて間違いないだろう。では、Aシリーズにこのフラッシュメモリコントローラは統合されているのだろうか。A9では、この点はまだ明らかではない。
A9の詳細は、これからも明らかになっていくだろう。今後は、Appleの最終製品だけでなく、同社が半導体ICについてどう差異化を図っているのかについても、より焦点が当てられるようになるだろう。
【翻訳:青山麻由子、滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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