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ダイエットで脳が壊れる? 危険な“負の連鎖”世界を「数字」で回してみよう(25) ダイエット(5/7 ページ)

ある晩、風呂に入ろうとしていた私の体を見て、娘が悲痛な叫びをあげました。鏡を見ると、びっくりするほど痩せ細った私が映っていたのです。今回は、ダイエッターにとって決してひとごとではない“ダイエットの負の連鎖”、つまり摂食障害の深刻さについて数字を分析してみましょう。

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“痩せ過ぎモデル”禁止令

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 さて、フランスで、「痩せ過ぎのモデルの雇用を禁止する法律(参考)」が制定されたことは、ご存じの方も多いと思います。(私、フランス語は全く読めないので、不安は残るのですが)多分これのことだと思います*)

*)大学で第二外国語にフランス語を選択していた嫁さんに相談したら、「うーん、覚えているのは『ケスクセ』くらいかぁ」とのことでした(私のドイツ語も『イッヒ リーベ ディッヒ』が限界です)ので、Google翻訳先生(フランス語バージョン)にお願いすることにしました)。

 この法律の概要は、Googleなどで検索していただければすぐに見つかりますので詳細はバッサリ割愛しますが、要約すると、モデルを雇用する事務所に対して、「BMIが18未満のモデルを雇用してはならない」と命じるものです。

 私、これを聞いた時、かなりビックリしました。

 「自由・平等・博愛」を憲法で規定している、あのフランス ―― あの「レ・ミゼラブル」で「ベルサイユのバラ」の ―― あのフランスが、ですよ、「職業選択の自由」という民主主義の根幹理念に対して、『個人の体形(スタイル)による介入(差別)を決断した』とも読めたからです。

 さらに、この法律の罰則の適用が、法人(事務所)だけではなく、個人(代表取締役など)に対する刑罰まで及んでいることも驚きでした。

 だって、事務所に「最大1000万円(7万5000ユーロ)の罰金」を課すことはできても、「最大6カ月の禁固刑」は課せません。つまりは、罰則の対象には個人が含まれていることになることになるのです。

 つまり ―― あの国は、もう、「自由・平等・博愛」という原理原則にこだわっている場合ではない ―― というくらい、フランスのモデルと、そのモデルに影響を受ける若い女性たちの摂食障害(拒食症)が、シャレにならない状況にある、ということです。

 そこで、ざっくりと計算してみました。

 日本の15歳から25歳の女性の人口は、平成27年現在で584万人です。このうち、0.1%が拒食症になり、その10%が死に至るとした場合、死亡者は584人になります。

 一方、フランスの拒食症患者は、3万人から4万人と推定されています(法文の前文に記載があります)。日本と同様に、その内の約10%が死に至ると仮定した場合、その死亡者数は3000人から4000人になります。

 つまり、フランスでは、日本の5倍から7倍の人数の、(主に若い)女性が、ダイエットで死んでいるかもしれないのです。しかもフランスの人口は、日本の半分くらい(52%)です。

 (そりゃ、もう、これは、国家レベルの非常事態といってもいいよなぁ)と思いつつ、法文の前文(日本語翻訳)を読み進めていくと、

『このようなモデルの事務局の振る舞いを、従来の刑法の枠組みで規制することは難しい(だから、この法律が必要なのだ)』

という、法律の設立趣旨の記載がありました。

 フランスも「自由・平等・博愛」の建前と、この法律の成立の間で、苦しんできた様子が伺える一文と思えました(江端が誤訳・誤解していれば、ご指摘ください)。

 さらに、この法律の前文には、もう一つ気になる用語「プロアナ(Pro-ana)」が頻出しています。

 「プロアナ」とは、「拒食症(Anorexia nervosa)は、精神疾患ではなく、個人の生き方であると肯定(Pro)する考え方や社会運動」のことです(参考)。その主張の1つには、「拒食とは1つの生き方である。だから、本人の意思を無視して治療を強要するな」というものがあります。

 これに対して、この法律の前文には『プロアナを主張し、過激なダイエットを推奨するネットサイトに対しても、この法律を援用できる』との記載が見られます。

 このように、この法律は、ネットのダイエットサイトとの対決姿勢も鮮明にしているようです。

 ファッション界のブランド国である、フランスでのこの法律の制定は、今後世界中に大きな影響を与えると予想されます。

 既に、イタリア、イスラエル、スペインでは、痩せすぎモデルをショーへと出演させることを禁止する法案が成立しています。今後、フランスと同様に、モデル事務所の社長を「狙い撃ち」にする法律が成立する可能性は十分に高いです。

 そして、さらに、ダイエットのネットサイトまでもがスコープに入ってくるのであれば、BMI18以下の若く女性を大量に雇用しているアイドルグループの事務所をたたきつぶすことなど、造作もないハズです

図版
「「ダイエットで美しくなれる」は、本当か?」から抜粋

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