ロボットに人間並みの触覚機能を与えるセンサー:ポイントは“せん断力”
立命館大学などは、「国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」で、垂直力とせん断力を区別して検出できるセンサーを展示した。介護や産業用ロボットに、人間並みの触覚を与えられるという。
材料のデータを定量化できる可能性
立命館大学などは、2016年1月27〜29日に東京ビッグサイトで開催された「国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)ブースで、「人間並みの触覚を与えるセンサー」の展示を行った。介護や産業用ロボットに実装することで、障害物の接触状態や最適な把持(はじ)状態の検知ができる。
立命館大学の情報理工学部で教授を務める野間春生氏は、「同センサーのポイントは、“せん断力”(物体の断面に平行に加わる力)を検知できる点にある。人間が物を持つときは垂直力に加えて、このせん断力が働いているため、触った物体をつぶしたり、落としたりすることがない。せん断力がないのは、手袋や軍手をはめているときと同じ状態である。同センサーは、垂直力とせん断力を検知できることによって、ロボットに人間並みの触覚を与えて、ロボットを器用にすることができる」と語る。
同センサーはロボットへの適用だけではなく、物体表面の微細な凹凸や摩擦係数、硬さなどの質感を計測して、材料のデータを定量化できる可能性もあるという。「化粧品や香料など人間の感覚に依存していた品質検査を定量化できるため、生産技術の新たな発展にも貢献する可能性があるなど、さまざまな応用が期待できる」(野間氏)とした。
近接検知も可能
同センサーは、MEMSで作り込んだカンチレバー(図1)を、弾性材料(エラストマ)に埋め込んでいる(図2)。エラストマの変形を、そのままMEMS構造の変形として検知する仕組みだ。垂直力とせん断力を印加した場合でMEMS構造の変形が異なるため、垂直力とせん断力を区別して検出が可能になっている(図2)。また、行列計算を用いたアルゴリズムを使用していることで、3次元ベクトル力をリアルタイムで計測できるとした。
また、MEMS構造の電気回路を応用し、センサーに対象物が触れる前の近接検知を可能にしている。入射光による光導電効果で、ひずみゲージ抵抗の下にあるSi空乏層の静電容量が変化する。この効果を応用し、ひずみ抵抗部分の高周波インピーダンスにより入射光の強さが計測可能になるという。センサーの近くに光源を設置すると、物体の接近に伴って反射光が強くなり、センサーから物体までの距離計測ができる。
“人間の触覚がどうなっているのか”
同研究は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクト「ナノテク・先端部材実用化研究開発/ナノ薄膜技術を応用したロボットのための集積多軸触覚センサの開発」(2005〜2008年)から始まっている。
現在は、「データ処理やコネクターなどの機能を搭載したモジュールとして、外部に提供できるように開発を進めている」(野間氏)とした。プロジェクトは立命館大学に加えて、新潟大学/大阪大学/コガネイなどが参画。野間氏は、「最終的には、人間の触覚がどのような仕組みになっているのかを追求したい」とした。
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