自動車業界にとって5Gとは何か(後編):DSRCは短命に終わるのか?(2/3 ページ)
米国では数年のうちに、DSRC(狭域通信)を車載通信技術として搭載することが義務付けられるともいわれている。もちろん、どの国でもそういった傾向にあるわけではない。5Gの性能が十分であれば、DSRCが短命に終わる可能性も否定できない。
DSRCの政治的な背景
DSRCの背景にある政治は複雑だ。
次のような事実がある。米国運輸省は2014年夏にDSRCに関する規則の事前公告(ANPRM:Advanced Notice of Proposed RuleMaking)を発行した。Lanctot氏によると、当初2015年末に規則の制定に着手する予定だったが、過去の数多くのケースと同様に、この期限は守られなかったという。なお、この規制には議会の承認は必要ないようだ。行政予算管理局は現在、可能性のある義務付けのコストへの影響を検証している。
Connected Vehicle Trade Association(CVTA)のプレジデントを務めるScott McCormick氏は、「DSRCの搭載義務化は、オバマ大統領の任期終了までに決定されると考えている。われわれの経験から言えば、こうした決定が下されるタイミングは残念ながら、交通事故に対する懸念よりも、政治的な理由によって決まるものだ」と述べている。
NXP Semiconductorsは、「2016 International CES」(2016年1月6〜9日、米国ラスベガス)の開催後に発表したプレスリリースで、米国運輸長官のAnthony Foxx氏が同社のCEO(最高経営責任者)であるRick Clemmer氏とラスベガスで会談したことを明らかにした。両氏は、自動車と都市のスマート化と安全性の向上を促進し、ドライバーと歩行者を守るための相互的な取り組みについて話し合ったという。
左から、NXPのCEOであるRick Clemmer氏、NXPのエグゼクティブバイスプレジデントのKurt Sievers氏、米国運輸長官のAnthony Foxx氏、NXPの車載部門でCTOを務めるLars Regar氏 出典:NXP
米運輸省は2015年中にDSRCを義務化することはできなかったが、こうした動きを見ると、政府はDSRCの義務化に向けて動き出しているようだ。
IHS AutomotiveのJuliussen氏は、「自動車業界はV2Xによって享受できるメリットに関心を持ち、DSRCの展開に向けた準備を進めている」と述べている。「業界は、事故や交通渋滞によって発生するコストが自動車業界の今後の成長にマイナスになることを理解している。自動車メーカーはDSRCが社会に大きなメリットをもたらす技術であることを認識し、展開する体制を整えている」(同氏)。
Juliussen氏は、「米国でV2Vの義務化が実際に施行されるのは2020年ごろになると予想される。V2I(Vehicle to Infrastructure)に関しては、進展は遅いものの当初の想定よりは早いペースで展開されるとみられる」と述べている。
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