自動車業界にとって5Gとは何か(後編):DSRCは短命に終わるのか?(3/3 ページ)
米国では数年のうちに、DSRC(狭域通信)を車載通信技術として搭載することが義務付けられるともいわれている。もちろん、どの国でもそういった傾向にあるわけではない。5Gの性能が十分であれば、DSRCが短命に終わる可能性も否定できない。
懐疑的な見方も
V2X通信向けチップも、開発が進められている。V2X向けチップを手掛ける半導体ベンダーには、NXPやQualcomm、イスラエルのAutotalksなどがある。米国では2017年に、GM(General Motors)がV2V機能を搭載した「Cadillac」のフラッグシップモデルを発売する。同モデルには、NXPのV2Vチップが搭載されるという。
一方、Strategy AnalyticsのLanctot氏は、DSRCに対して懐疑的な立場を取っている。Lanctot氏は、「米国政府と運輸省は、自動車による事故の低減を目指すだけで、技術やビジネスモデルに関する懸念事項については理解していない」と指摘する。同氏は、「米国政府と運輸省にとって、DSRCは事故の低減を実現できる完璧かつ強力な方法かもしれない。だが、それは、15年間に8億米ドルというばく大な予算を注入しながらも、目立った成果を上げられていないことへの説明にはならない」と批判している。
Lanctot氏は、「米下院議会の最新の証言によると、DSRCに関する知識が深まるにつれて、同技術に関して懐疑的な見解が明らかに増えている。DSRCに割り当てられたギガビットWi-Fiの周波数帯が無免許で利用できることに対しても、反対意見が増えている」と指摘している。同氏は、「DRSCを市場で普及させるには、キャリア(通信事業者)のインフラを活用するのが最も有効だ」という見解を示している。
5Gの進化でDSRCは短命に終わるのか?
短期的あるいは中期的な視点で見れば、自動車業界における5Gの採用は当面はないと考えられる。だが、5Gのようなモバイルネットワークが進化したあかつきには、DSRCは短命に終わるのだろうか。
Juliussen氏は、それは国によって変わるだろうとしている。「米国では、長く使われるとみられている。V2VやV2Xは、自動運転のための情報取得に有用な技術だからだ」(同氏)。
ただ同氏は、「一方で、V2Xの実装スケジュールが遅めの国では、5Gの性能が十分であればDSRCそのものを使わない可能性もある」とも述べている。同氏によれば、「世界的に見ると、日本はV2I実装ではリーダー的存在だが、V2Vではやや動きが遅い。一方の欧州は、V2IとV2Vを組み合わせて実装しようとしている。韓国では、まだ研究開発段階だが、実装すると決断した後は、素早く動くだろう。中国では目立った動きはなく、5GベースのV2Xを待っているのかもしれない」という。
【翻訳:青山麻由子、滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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