アジアの聯発科技が世界のMediaTekに化けるまで:この10年で起こったこと、次の10年で起こること(2)(2/2 ページ)
今や世界的なロジックチップメーカーとなったMediaTek(聯発科技/メディアテック)。そのMediaTekが山寨機(さんさいき)でアジアを席巻しながらも、スマホで出遅れ、再び巻き返して“世界のMediaTek”へと進化してきたこれまでを振り返っていこう。
猛烈な巻き返し
MediaTekはその後、数年の遅れを取り戻すべく、猛烈な勢いでスマートフォン向けのプラットフォームを拡充させていく。MT6575(ARM Cortex-A9コア)、MT6577(同Cortex-A9コア✕2)、MT6589(同Cortex-A7コア✕4)と発売していく。プロセステクノロジーもQualcommやSamsungとほぼ同じペースで40nm、28nmを活用していく。ライバル各社がほぼ1年に1回チップセットを更新するのに対してMediaTekは、上記3チップでの更新間隔は、ほぼ数カ月おきと、数年の遅れを取り戻すべく、ハイペースであった。2014〜15年には通信機能のLTEも実現し、スマートフォン向けのプラットフォームとして、Qualcommにほぼ匹敵する最先端チップを提供できるメーカーへと完全に転じている。
図2はMediaTekのチップセットを活用し、最先端スマートフォンを提供する急成長する中国LeTVの端末「MAX」である。ターンキー時代と同じくMediaTekのチップだけで賄われている。このモデルでMediaTekは初めてチップにブランド名を与える。味気ない「MTxxxx」という名前から「helio」と名付けられたチップをリリースすることで、リーダーとしての風格さえも備わった。
2016年にはARMの最新CPUコアCortex-A72を頂点とする3階層のCPUコア構成(Cortex-A57+同A53)を持つ10コア製品「herio X20」もリリースされる予定だ。チップの仕様でも最先端をけん引するトップメーカーになっている。
図3は、同じくMediaTekのチップセットを活用したAmazonのタブレット端末「Fire HD6」である。かつて中国やアジアの山寨機のようなローカル市場のターンキーに過ぎなかったMediaTekの姿は、今や過去の記憶である。世界のトップメーカー(Amazonの他ソニー、Microsoftなど)にも採用されている。
世界のMediaTekが見据える先は?
インド、中国などの巨大市場にスコープを合わせ、インドのMicromaxなどと提携し、新たな端末コンセプト”ミッドハイ”を掲げるなど、絶え間ない努力を続けるMediaTekは、今後も注視が必要である。スマートフォン市場に陰りが出ている昨今MediaTekが次を見据えた変化を目標項目に入れていないはずがないからだ。MediaTekについては次回も引き続きテーマとして扱う予定である。
⇒「この10年で起こったこと、次の10年で起こること」連載バックナンバーは、こちら
筆者Profile
清水洋治(しみず ひろはる)/技術コンサルタント
ルネサス エレクトロニクスや米国のスタートアップなど半導体メーカーにて 2015年まで30年間にわたって半導体開発やマーケット活動に従事した。さまざまな応用の中で求められる半導体について、豊富な知見と経験を持っている。2015年から、半導体、基板および、それらを搭載する電気製品、工業製品、装置類などの調査・解析、修復・再生などを手掛けるテカナリエの上席アナリスト。テカナリエは設計コンサルタントや人材育成なども行っている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- スマホ台頭の陰で地位を失った“日の丸半導体”
これから10年先の半導体業界はどうなっているのだろうか――。過去10年に起こった半導体業界の変化を、スマートフォンやテレビといったキラーアプリケーションの解剖を通じて探りながら、次の10年のトレンドを連載で探っていく。第1回は、日本の半導体メーカーが世界市場でどのように地位を失っていったのか、その過程を見ていく。 - Qualcommのシェアを奪うMediaTek
台湾MediaTekが、LTE市場においてシェアを伸ばしている。特に、中国メーカーとの長年にわたる強力な業務提携を武器に、中国ではQualcommのシェアを奪っていくとみられている。 - Qualcommにも真っ向勝負、手ごわい中国メーカー
今回は、急成長する中国の半導体メーカーを紹介したい。これらのメーカーは、勢いや脅威という点では、米国を中心とする大手半導体メーカーのそれを上回るほどだ。Android Media Playerを分解しつつ、中国の新興半導体メーカーに焦点を当てていこう。 - 中国中堅タブレットにみたIntelの執念
“グローバル競争の主戦場・アジア”に出回るスマートフォンやタブレット端末などエレクトロニクス製品の分解を通じ、アジアから発信される新たなテクノロジートレンドを探っていく新連載「製品分解で探るアジアの新トレンド」。第1回は中国のスマートフォン/タブレット市場で「シェア第2グループ」に属するメーカーのタブレット端末2機種を分解して見えてきたトレンドを紹介する。