シリコン産廃を燃料電池の水素供給源にする技術:災害時に液体水素がなくても大丈夫!
大阪大学産業科学研究所の小林研究室は、「スマートエネルギーWeek2016」で、シリコン(Si)産業廃棄物を原材料として作製したナノ粒子を用い、大量の水素を効率よく発生させることができるプロセスのデモ展示を行った。燃料電池への水素供給源として利用できる。
スライス時に生じるシリコンの粉を有効活用
大阪大学産業科学研究所の小林研究室を中心とする研究チームは、「スマートエネルギーWeek2016」(2016年3月2〜4日、東京ビッグサイト)で、シリコン(Si)産業廃棄物を原材料として作製したナノ粒子を用い、大量の水素を効率よく発生させることができるプロセスのデモ展示を行った。
太陽電池などに用いられるシリコンウエハーは、シリコンのインゴッドをワイヤソーで適切な薄さにスライスして使用する。この時、シリコン切粉が大量に発生する。現在はシリコンインゴッドのうち、40〜50%は切粉やウエハー片として排出され、シリコン産廃物として処理されているという。
このシリコン切粉は形状がマイクロメートルオーダーの粒子であり、このままでは水との反応速度が小さく、水素発生源として再利用することは難しかった。そこで小林研究室と日新化成の研究グループは、原材料となるシリコン切粉に特殊な処理を行い、ナノ粒子化することで表面活性を高めた。その上で、「Siナノパーティクル」と呼ぶこの粒子と水を反応させ、大量の水素を低コストで発生させることができるプロセスを開発した。「水素イオンの濃度(pH)を高めると反応速度が向上する。逆に、クエン酸などを添加すると酸性になり、その反応を止めたり、反応速度を遅くしたりすることができる」(説明員)と話す。
水素発生と供給プロセスのデモ機。右奥の青いキャップのボトルが水素発生部(反応部)、その左のオレンジ色の筒が水素貯留タンクと上昇水タンク、その左の白色の筒は予備タンク、左奥が燃料電池。ここで発電した電気で手前にある電車を動かすデモを行った (クリックで拡大)
1gで1600ccの水素
今回の水素供給プロセスを用いると、シリコン1g当たり、約1300ccの水素を取り出すことができるという。また、反応が平衡に達した後でも、シリコン残渣を特殊処理することで合計1600ccの水素を取り出すことが可能となる。
Siナノパーティクルの加工品は、保存や可搬が容易な水素カートリッジやカプセル、錠剤、フィルムなどを用意する。この他、ペーストスラリーやバルク、パウダーでの供給も行う予定である。
共同研究グループでは今後、関連する国家プロジェクトとの連携も見据えながら、10年以内の実用化を目指していく考えだ。用途としては、水素ステーションや燃料電池車への補助的な水素供給、可搬型で緊急用の燃料電池向けなどを視野に入れている。改質装置を用いることなく、発生した水素を燃料電池に供給できる。このため、「補助的な水素供給源として今回の装置を水素ステーションや燃料電池車に組み込んでおけば、災害発生時などに輸送網が遮断され、液体水素を充てんできない場合でも、発電を続けていくための有効な手段になる」(説明員)と述べた。
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