中国製Wi-Fiルーターから見えるLTEモデム事情:製品分解で探るアジアの新トレンド(3)(3/3 ページ)
今回は、中国で売り出されたばかりの最新Wi-Fiルーターを分解していく。搭載する主要半導体は、Qualcommをはじめとした米国メーカー製品ばかり。なぜ、手ごろな中国製Wi-Fiルーターが、中国や台湾ではなく米国メーカー製を採用する理由についても紹介しよう。
“All Taiwan”“All China”ではない理由
図5に掲載したQualcommのモデムチップ「MDM9215」は、2G/3G通信からLTEまでの3世代の通信方式に加え中国で主流のTDD方式、欧米日本で主流のFDD方式にも対応する、ほぼ全ての通信方式に対応するチップである。
今回扱ったKinLeのWi-Fiルーターのチップ構成はWi-Fiチップを除けば、ほぼ全てがAppleの「iPhone5/5s」のモデム部と同じものであった(Qualcommセットからパワーアンプまで!)。iPhone5/5sは2012〜13年の製品、MDM9215は第1世代のLTEモデムで若干古い。その後MDM9X25、MDM9X35とブラッシュアップを進め、通信速度も、150Mbps⇒300Mbps⇒450Mbpsと向上。KinLe製品はLTEの初期速度である150Mbpsのチップを活用することで端末価格を抑えている。150Mbpsという通信速度は、通常の使用ではほとんど問題はないものである。通信部、ハード的にはKinLe≒iPhone5であるからだ。
AppleのiPhone5やSamsungのGalaxy S3で使われたMDM9215チップセットは、世界でもっとも出荷されたLTEチップである。150Mbpsの通信速度で十分な場合、実は今、Qualcommしか選択肢がないのだ。IntelやMediaTekは、300Mbps以上のチップからLTEに参入し、値段も若干高い。一方過去の大量生産で値段がこなれたQualcommチップは量産効果で、レガシー価格を設定できている。中国HiSiliconのチップセットはHuaweiのプラットフォーム向けに限定されていて、広く一般販売されていない。このような状況なので、KinLeのようなQualcomm構成の通信ルーターが中国では今はメインなのだ。All Japanで作れないことは別途、問題視したい。
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