薄膜の多孔性材料で、ゲート開閉機構を発見:ナノサイズのMOF、層間距離を広げて分子を吸着(2/2 ページ)
京都大学や物質・材料研究機構らの研究グループは、結晶をナノメートルサイズに薄膜化することで、分子の吸着機能を発現する「多孔性材料」を発見した。新しいガス分離膜やセンサー材料などへの応用が期待される。
結晶性であることを実証
作製したMOF薄膜について、大型放射光施設「SPring-8」のBL13XUビームライン放射光を用いX線回折実験を行った。この実験結果から、作製したMOF薄膜が面内方向、面外方向共に結晶性であることが実証された。また、基板を2種類の溶液に交互に漬す工程を、30回繰り返すことで得られたMOF薄膜の平均的な膜厚は、約16nmであることも分かった。
作製したMOF薄膜について、X線回折実験を行った。上部(A)が基板面に平行方向の情報を含む面内配置、下部(B)は基板面に垂直方向の情報を含む面外配置におけるX線回折パターンの例 (クリックで拡大) 出典:京都大学他
さらに、研究グループはエタノール分子の蒸気にこのMOF薄膜をさらして、放射光X線回折実験を行った。そうしたところ、エタノールの蒸気圧が上昇すると、あたかもゲートが開くようにMOFの層間距離が広がってエタノール分子を取り込んだ。逆に蒸気圧が下がると取り込んだエタノール分子を放出しながらゲートを閉じるように層間距離が縮むことを確認した。
一方、Layer-by-Layer法のサイクル数を増やし、意図的に厚くしたMOF薄膜では、エタノールの蒸気にさらしても層間距離は変化せず、分子が取り込まれないことが分かった。この結果から、MOFの分子吸着機能は、ナノメートルレベルで膜厚を変えることにより制御可能な機能であることを実証した。
研究グループは、今回の研究成果について「基礎」と「応用」の両面で波及効果があるとみている。それは、結晶のサイズ(膜厚)がMOFの物性に関与しており、そのサイズによって多様な多孔性材料が登場する可能性が高いこと、膜厚を制御することでガス分子に対する応答特性を調節できるセンサー材料などの開発につながる、ことなどを挙げた。
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