鳥取の事例にみる、地方製造業“再生”の可能性:勝ち抜くための組織づくりと製品アーキテクチャ(14)(5/5 ページ)
本連載の最終回となる今回は、筆者が鳥取県で行ってきた、雇用創造プロジェクトの支援活動を通じて見えてきたことを紹介したい。素直に考えれば、雇用を創出するには、事業創出/事業拡大が必須になる。だが少ない人口、少ない資金に悩む地方圏の企業には、立ちはだかる壁が幾つもあるのだ。
自立からは程遠い、行政の“支援”
自治体の理屈からすれば、講座を行う(=人材育成をする)ことや、企業に人を送り込む(=採用を促す)ことが彼らの仕事で、結果として、その企業が本当に強くなったかどうか、成長したかどうかなどはどうでもいいのである。これでは、いつまでたっても、企業は自治体におんぶに抱っこなままで、自立からは程遠い。
行政側も、こういう結果になるであろうことは、うんと昔から分かっていたはずだ。それにもかかわらず、同じことを延々と繰り返す過ちを犯している。本来ならば、行政の対象地域にある企業を育てる、つまり、「事業を発展させる」「経営として会社を軌道に乗せる」「外部環境の変動に影響されにくい企業体質を作る」などの、企業経営や事業成長を最も大事にしなければ、自分たちのミッションである雇用創出などはあり得ないということになぜ、気付かないのだろうか。あるいは気付いていても、「余計な波風は立てない」ようにしているのだろうか。企業側の課題以上に、企業を支援する側であるはずの自治体側の課題が多く見えてくるのも、おかしな話だ。
そのような中、鳥取県の本プロジェクトは極めて珍しいケースで、参加企業の満足度と、推進した鳥取県庁商工労働部への評価は非常に高い。このような取り組みが他県でも広がっていけば、ひょっとしたら、航空機の“下請け”ではなく、主要部品メーカーとして“主役を張れる”メーカーが、地方からももっと生まれてくるのではという期待でワクワクする。
おわりに……
およそ1年にわたり連載してきた本コラムは、今回が最終回である。
前回までと「連続性がないじゃないか!」と思われる読者諸氏もいることだろうが、今回、ご紹介した鳥取県の取組みでは、本コラムで連載してきた内容を講座やハンズオン(=実践)において、実際に企業支援をしてきた。今、それが少しずつ実を結びつつあることは、個人的にはうれしい限りである。
本コラムは、難しい内容もあり、自社の製品や製品開発プロセス、組織に当てはめる場合、どうすればよいのかと考える皆さんも、多くいたことだと思う。
それは、まさに、鳥取県における「講座」と「ハンズオン」の違いでもある。本連載は、いうなれば「講座」である。これを持ち帰ってあれこれと悩み、考え抜くことで、徐々に解決に向けての糸口を見いだせるのではないだろうか。筆者自身も、活動支援においては「答えは教えないが、考え方は教える」ことと、「一緒になって考える」ことを大事にしてきた。まずは、皆さんが自社や自部門で、わいわいがやがや、自社/製品の未来について語るところから始めては、いかがだろうか。
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Profile
世古雅人(せこ まさひと)
工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者として、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。
2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱。技術評論社より『上流モデリングによる業務改善手法入門』を出版。2012年からEE Times Japanにて『いまどきエンジニアの育て方』『“AI”はどこへ行った?』などのコラムを連載。
一般社団法人TXアントレプレナーパートナーズ(TEP)で技術系ベンチャー企業支援と、厚生労働省「戦略産業雇用創造プロジェクト」の採択自治体である「鳥取県戦略産業雇用創造プロジェクト(CMX)」のボードメンバーとして製造業支援を実施中。
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