5Gのミリ波伝搬チャンネルモデルを無償公開:米大学が技術開発の加速を狙い
ニューヨーク大学が、5G(第5世代移動通信)向け技術として有望視されているミリ波帯通信の伝搬チャンネルモデルを無料で公開した。同大学は、こうした研究成果やツールをオープンソース化することで、5Gの技術開発を加速させたいとしている。
米国NYU(ニューヨーク大学)科学技術専門校 無線研究センター「NYU Wireless」は、5G(第5世代移動通信)の進展を促進する取り組みの一環として、ミリ波帯通信における伝搬チャンネルモデルの構築やミリ波の計測ができる、無料のオープンソースソフトウェアを提供する計画を明らかにした。このソフトウェアでシミュレーションすることで、開発者はミリ波帯の無線スペクトラムの挙動を把握しやすくなるという。
無料でダウンロードできる同ソフトウェアには、伝搬チャンネルモデルやシミュレーションコードが含まれていて、チャンネルにおけるインパルス応答の生成や遅延時間の計測、受信電力レベルの設定などを行える。ソフトウェアのデータは2GHz〜73GHzの帯域に対応していて、ニューヨークとテキサス州オースティンでの4年間にわたる計測結果に基づくものだという。
空間チャンネルモデルは、2GHz〜73GHz帯で行った実験結果を基に構築されたものだ。実験は、ニューヨークとオースティンで、2011〜2014年にかけて行われた(クリックで拡大) 出典:NYU Wireless
NYU Wirelessでディレクターを務めるTheodore Rappaport氏は、「個々の企業や大学は通常、非公開で研究開発を行う。研究について公表はするが、研究内容の再現方法などの詳細は明らかにしない。われわれはこうした状況に反して、計測に基づいたデータやシミュレーションコードを全て公開することを決断した。これによって、世界中の開発者が製品化までの時間を短縮したり、計測にかける手間を削減したりできることを期待している」と述べた。
1Wで200〜500mの伝送が可能
指向性が高く、帯域幅が広いミリ波帯は、5G向け技術として特に有望視されている。Rappaport氏は、「現行の4G携帯通信のデータ伝送レートは50Mビット/秒だが、ミリ波は通信状況が良好でない都市部でも数Gビット/秒を達成できる可能性がある」と述べている。
NYU Wirelessの研究チームは、ミリ波の帯域が光ファイバーと同等レベルのバックホール伝送を実現できることも確認したという。さらに、ミリ波帯通信用の基地局とアクセスポイントは、シンプルな指向性アンテナやフェーズドアレイアンテナを使うことで、1Wという極めて低い消費電力で200〜500mの伝送が可能だという。
ミリ波帯通信の研究はかなり前から行われてきたが、標準化や周波数割り当てに関する政府のガイドラインの策定が進まなかったため、5Gへの応用に向けた研究が遅れた。米国の市場調査会社であるCurrent Analysisでアナリストを務めるPeter Jarich氏は、「『Mobile World Congress(MWC)2016』(2月22〜25日、スペイン バルセロナ)で最も革新的だと感じたのは、オープンソース化や共同の取り組みの数々だった」と述べている。
Jarich氏はEE Timesに対して、「ミリ波の活用は重要だ。それと同時に、5Gの実現に向けてより多くのデータを結集し活用できるようにするオープンソースも重要だ」と語った。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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