SiC用接合材の自己修復現象を発見:銀焼結材の実用化に向けた課題解消へ
大阪大学とデンソーは2016年3月、SiC(炭化ケイ素)を用いたパワー半導体の接合材として検討されている銀焼結材が高温下で亀裂を自己修復する現象を発見したと発表した。
はんだより電気的、熱的特性に優れる銀焼結材
大阪大学とデンソーは2016年3月28日、SiC(炭化ケイ素)パワー半導体の長期信頼性を高めることのできる接合材の自己修復現象を発見したと発表した。
パワー半導体の故障理由の1つとして、接合部の剥離が挙げられる。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が2009〜2019年度の期間で実施している「低炭素社会を実現する次世代パワーエレクトロニクスプロジェクト」において、従来の接合剤であるはんだ材より、電気的、熱的特性に優れ、SiCパワー半導体の接合に適した銀焼結材の開発を行っているが、剥離寿命が短く、実用化に向けて解決する必要があった。
そうした中で、阪大とデンソーはNEDOプロジェクトにおいて、銀焼結材の接合層中に生じる亀裂が高温の機器動作環境下で自己修復するという現象を発見したという。
自己修復現象が確認されたのは、マイクロサイズとサブミクロンサイズのハイブリッド銀粒子ペーストを用い、250℃の低温で30分間の大気中の接合プロセスを用いたダイアタッチ接合構造の接合部だ。
この接合プロセス(銀ペースト焼結接合法)は、広く行われているナノ粒子を用い高圧を付加する接合プロセスと比較して、ハンドリングが容易であり、原料が安価だ。さらに強度も40MPa以上とはんだより高く、熱伝導率ははんだの5倍以上となる150W/mK以上に達し、無加圧か1MPa以下の低圧で処理が可能、という特長がある。
明らかな回復を確認
阪大/デンソーの研究チームは、自己修復現象の確認実験として、銀粒子を高密度に焼結し、引張り試験片を作製。この引張り試験片にノッチ加工を施し、さらにわずかな引張荷重を掛けることで、ノッチの先端に鋭い亀裂を入れた。そして、この試験片をSiCパワー半導体の動作温度を考慮して、大気中で200℃および、300℃で保持し、亀裂先端の変化の様子と試験片の引張り強度変化を調査した。
SEM(走査型電子顕微鏡)を使い亀裂を確認したところ、亀裂を入れた当初に比べ、200℃で50時間ほど保持した際に、亀裂の幅が縮小し、さらに300℃に温度を上げ10時間ほど経過すると亀裂の大部分が閉じ、自己修復している様子がうかがえた。
亀裂を導入した試験片の引張り強度変化 出典:NEDO
亀裂導入試験片の引張り強度に及ぼす200℃における焼鈍の効果を示し、比較のために亀裂を導入しない試験片の強度変化も併せて示している。亀裂がない試料は、時間と共にわずかに強度が減少するが、亀裂導入試験片は、初期状態から明らかに回復が見られ、100時間保持後はほとんど亀裂を導入しない試験片と同等のレベルに到達していることが分かる。
車載応用へ近づく
今回の現象発見についてNEDOは、「銀焼結材の実用化における課題であった剥離寿命について、自己修復によって解決できる可能性を見いだし、自動車分野への適用可能性を大きく高めた。銀焼結材は、高耐熱性、低損失性に優れるため、SiCパワー半導体の適用拡大も期待できる」としている。
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