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大いなるタブーなのか――人身事故を真面目に検証する世界を「数字」で回してみよう 人身事故(29)(5/8 ページ)

電車を日常的な移動手段にしている者にとって、疲れ果てている時、急いでいる時に発生した人身事故ほど、心が疲弊するものはありません。ですが、声を大にして人身事故を批判することはタブーである、という暗黙の了解が、なぜか存在するのです。今回から始まる新シリーズでは、この「(電車での)人身事故」について、「感情的に」ではなく「数学的に」検証したいと思います。

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日本の自殺率は世界で何位なのか

 さて、『「3万人」の意味』検討に戻ります。

 何から始めれば良いのか分からなかったので、まずは世界各国での自殺率の比較をしてみました。

 上の表では、日本はワースト18位になっています。

 なお、この表では、年齢調整自殺率というものを採用しています。日本は高齢化社会なので、単なる自殺者の人数で数え上げると不公平となるので、年齢人口で補正をした値にしたものです。単純な「10万人当たりの自殺者数」とすると、日本は一気にベストテン入り(7位)してしまいます。

 現在、世界第1位のガイアナは、人口77万の小国で、たった7人の自殺で、ポイント+1になるという、世界一自殺率が変動する国(2004年45位→2008年9位)ということで、今回は検討対象外とします。

 また、インドは他の国と比較して女性の自殺率が高く、そして、驚くべきことに中国では、女性の自殺率の方が高いのです(調べたら、中国以外にも、パキスタン、バングラデシュ、インドネシア、イラクの4カ国のみが該当(170カ国中))。

 そして、自殺率のデフェンディングチャンピオンは、お隣の国、韓国です(OECD(経済協力開発機構34カ国)で2003年から連続第1位)。出生率の悪さでは、日本も韓国と同様の世界のワースト国ですが、自殺率の高さでは、韓国はブッチギリのトップです。

 一方、日本も、先進7カ国(G7)の中では、ワースト1位(18.5人/10万人)です。しかも、他のG7各国を思いっきり引き離しての第1位なのです。

 私、これまで、たまたまG7の各国出身の人たちと一緒に仕事をする機会があったのですが(といっても、1人か2人くらいですけどね)、その中でも一番、仕事がしやすいなぁと感じていたのがドイツ人でした。

 私は、わが国が、先の大戦で枢軸国としてドイツと同盟を組んだのには理由があったと思っていました(イタリアのことは忘れる)ので、今回の、ドイツの自殺率(9.2人/10万人)を知って裏切られたような気持ちです。

 日本と同様に、勤勉で真面目な国民性なのに、自殺率が低いって、ずるいじゃんか ―― と。

 また、イタリア(4.7人/10万人)の4倍も多くの自殺率となっているのも、面白くありません。頼んでおいた顧客打ち合わせのセッティングを忘れて、のほほんとしていた、あの野郎を思い出していたら―― だんだん、腹立ってきました。

 それはさておき。

 どうしても「3万人」の数字的意義が分からないので、私は考え方を変えることにしました。

 『日本で、あとどのくらい自殺者が出てしまうと、デフェンディングチャンピオンである韓国を抜いて、世界ワーストワンに踊り出てしまうのか』 ―― と。

 年齢調整をしない自殺率では、韓国(36.6人/10万人)ですので、これを日本の人口から算出すれば、年間4.7万人(2015年現在現在2.4万人)の自殺者という計算になります

 『4.7万人なんて数が大きすぎて、日本は、韓国には到底追い付かない』と思いますか?

 実は、わが国では、1998年に、たった1年で自殺者が9000人増えたことがあり(前述のグラフ参照)、2003年には(男性のみの自殺率ではありますが)「38.0人/10万人」の自殺率をたたき出しています(韓国:36.6人/10万人)。

 そのデータだけを見る限りでは、瞬間風速的ではありますが、韓国(2015年)の自殺率を超えているのです。

 つまり、

 日本は世界第1位の自殺大国になるポテンシャルを十分有している ――

と考えるべきでしょう。晴れて世界第1位になった暁には、「世界一不幸の国、日本」というイメージを、世界に発信することになるでしょう。

 このように考えれば、自殺者3万人という数字は、世界的水準から見ても、相対値ではなく、絶対値としても絶望的に悪い、と言えます。

 わが国は、経済大国を称し(あるいはかつて称してい)た国として、世界から嘲笑を受け、面目丸つぶれの「絶望国家」に成り下がるというリスクを、いつでも背負っているのです。

 こんなところで、『「3万人」の意味』の検討はここまでとします。

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