無線充電の今、大電力の本命は?:TECHNO-FRONTIER 2016(4/4 ページ)
さまざまな非接触給電・充電(無線充電)システムの展示が「TECHNO-FRONTIER 2016」(2016年4月20〜22日/幕張メッセ)に集まった。ダイフクは電動フォークリフト向けの非接触充電システムを展示。世界初の実用化だと主張する。メートル単位の電力伝送が可能な「磁界共鳴方式」との違いなど、技術の内容を中心に特徴を紹介する。
性能を決める「Q」と「k」の違い
磁界共鳴方式と電磁誘導方式の性能を決める要因は何だろうか。
「磁界共鳴方式と、当社のHIDを例に電磁誘導方式の特性を比較したものが図8だ。増幅率に相当するクオリティファクター『Q』とコイル間のインダクタンス結合を示す結合率『k』に注目して欲しい」(布谷氏)。
磁界共鳴方式は、Qが500と大きい。kは0.05と小さい。電磁誘導方式は逆だ。Qは5と小さく、kが0.5と大きい*4)。「磁界共鳴方式ではkの値をあまり高めることができず、さらに人体防護の観点から、電流を電磁誘導方式の100分の1に抑えないといけない。送電電力はkの2乗に比例するため、結局Qを大きくするしかないということだ」(布谷氏)。これらの効果を重ね合わせると、磁界共鳴方式では電力の供給能力が、電磁誘導方式の10分の1にとどまる計算だという。
*4) 「この値はHIDのものだが、今回のD-PADでもほぼ同じ程度の値になっている」(布谷氏)。
磁界共鳴にはもう1つ「弱点」があるという。共振周波数「f」だ。MITが発表した当時の共振周波数は10MHz程度。だが、電波防護指針(総務省)やICNIRP(世界保健機関:WHO)に基づいて人体防護を考えると、このままでは利用できない。
「図8の下部にあるように、電流値を450分の1〜1000分の1に下げるか、共振周波数を落として結合率を維持するしかない。無線通信技術に関する業界団体であるブロードバンドワイヤレスフォーラム(BWF)でも磁界共鳴の周波数帯を検討しており、大電力伝送の分野では周波数を低くする方向にある。実際に今回のTECHNO-FRONTIERでの各社の展示では、85kHzまで下げていた」(布谷氏)。
大電力伝送の分野では、磁界共鳴方式と電磁誘導方式の差は確かに小さくなってきたといえるだろう。
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