体内に長期間埋め込み可能な生体電位センサー:CNTを均一に混ぜたゲル電極で実現
東京大学/大阪大学などの研究グループは、長期間体内に埋め込むことが可能なシート型生体電位センサーを開発した。
東京大学の染谷隆夫教授、大阪大学の関谷毅教授らの研究グループは2016年4月、体内に埋め込んで微弱な生体活動電位の計測が可能な有機増幅回路シート(シート型生体電位センサー)を開発したと発表した。
有機増幅回路シートは、新たに開発したゲル素材を電極に応用し、厚み1μmという極薄の有機薄膜トランジスタと集積して製造。新しいゲル素材は、ポリロタキサンと呼ばれるヒドロゲルに単層カーボンナノチューブ(CNT)を均一に混ぜて、導電性を持たせたものだ。
これまで、CNTは表面積が大きく束状になりやすいため、均一にゲル中に分散させることが難しかった。研究チームでは、イオン液体でCNTを解きほぐす技術を用いて、ゲル中にCNTを均一に分散させることに成功。ヤング率10kPaクラスの柔らかさとともに、100mS/cm2という電流の流れやすさ(アドミタンス)を兼ね備えるゲルを実現した。
長期埋め込み試験で優れた生体適合性を確認
このゲル素材の生体適合性に関して、ISO10993-5(細胞毒性試験)/ISO10993-6(生体への長期埋め込み試験)に基づく4週間の生体内埋め込み試験を実施したところ、炎症反応が極めて小さい材料であることが確認されたという。「従来の生体内埋め込み型電子デバイスに使われている金属電極と比べて、炎症反応が極めて小さい材料」(研究チーム)とし、新ゲル素材を電極に用いたデバイスであれば、長期間体内に埋め込むことが可能となったとしている。
研究チームは、こうした柔軟性、導電性、生体適合性を備えたゲル素材を用いた電極と、厚み1μmのポリエチレンテレフタレート(PET)上に有機薄膜トランジスタによる増幅回路を組み合わせて、シート型生体電位センサーを作成。増幅回路の増幅率は、周波数帯域100Hzで100倍、1000Hzで10倍を超えるという。
さらに研究チームはこのシート型生体電位センサーを心臓疾患のあるラットの心臓に貼り付け、虚血症による異常な心電と正常な心電を測定し、心筋梗塞の部位を正確に特定することも実証した。
将来的には「早期に疾病を発見するセンサー」として期待
研究チームでは、「生体内で生体活動電位を長期間に渡って計測できるシート型生体電位計測センサーが実現した。臓器に直接、貼り付けても炎症反応が極めて小さいので、疾患で弱った臓器も最小限の負荷で検査できると期待される。将来は、このシート型生体電位センサーを長期的に体内に埋め込むことにで、より早期に疾病を発見し、治療に生かしていくなど次世代医療デバイスとしてさまざまな応用が期待される」としている。
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