当初から険しい道のり、IntelのモバイルSoC事業:敗因はx86コアへの固執か
モバイル向けSoC事業の打ち切りを発表したIntel。PC向けプロセッサでは一時代を築いた同社だが、スマートフォンという巨大市場での競争には、とうとう勝つことはできなかった。
2000年、Anthony Cataldoという若く聡明な記者が、あるニュースに興奮した様子でEE Timesのサンマテオ支局に飛び込んできた。人々が「アプリケーションプロセッサ」と呼んでいたモバイルチップの新世代品が発表されるというのだ。
Cataldo氏はその翌週に発行されたEE Times誌の記事に、「先週、アプリケーションプロセッサの最も雄弁な伝道者ともいえるIntelは、スタンドアロン型のアプリケーションプロセッサの原型としてStrongARMベースの『XScale』プロセッサを日本で公開した」と書いている。
当時は折り畳み式携帯電話機の時代で、NTTドコモが提供する「iモード」サービスが新たなモバイルの未来を暗示していた。
当初から険しい道のり
2002年ごろには、Intelはまだ新しい市場の最下位にいた。同社はXScaleチップに自社製のフラッシュメモリを大量に搭載するという新しい取り組みを行った。このチップはMotorolaやResearch in Motion、Palmの携帯電話で2〜3のデザインウィンを徐々に獲得していったが、Intelにとって新市場での道のりは険しいままだった。
最終的に、Intelは2006年の構造改革でXScaleプロセッサをMarvell Technologyに売却し、当時著しく成長していたノートPC市場に注力できるようになった。Intelは同市場に向けて、より高価で収益性の高いチップを売り込んでいたのだ。アプリケーションプロセッサがSoC(System on Chip)市場であったことは明らかだったが、当時のIntelはSoCの設計よりも、より大きなサイズで高速な処理性能を持つPC向けプロセッサの設計に優れていた。
x86コアに固執したIntel
2007年、Intelはトップエンジニアの1人であったGadi Singer氏を、x86ベースのSoCを製造するために必要な設計/ツールを構築するための専門チームに異動させた。それから数カ月後、AppleがARMベースのアプリケーションプロセッサを搭載した「iPhone」を発売した。新しい市場が誕生した中、“間違ったアーキテクチャ”を手掛けていたIntelは必至にもがいていた。
2〜3年かかったものの、Intelは業界に追い付き、プラグアンドプレイ(PnP)の設計スタイルを取り入れた。ところが、同社はほとんどの携帯電話機に搭載されていたARMコアではなく、自社のx86コアの採用に固執してしまった。さまざまな試みにもかかわらず、Intelが大きなデザインウィンを獲得してスマートフォン市場を席巻することは一度もなかった。
Intelが競争力のあるx86アプリケーションプロセッサを発表し始めたころには、AppleとSamsung Electronicsはスマートフォン市場でのシェア拡大に向けて突き進んでいて、ARMベースの独自のSoCを既に製造していた。ARMベースのSoCは部品表(BOM)を大きく占め、スマートフォンの基盤技術の最も複雑かつ戦略的な部品になっていたのである。
中国にかけた望み
Intelは最後の望みをかけて、中国のRockchipとSpreadtrum Communicationsと提携し、x86ベースのアプリケーションプロセッサを両社と共同設計しようとしている。中国で勢いを増す新興スマートフォンメーカーに採用してもらうことが狙いだ。
IntelとRockchipが共同開発したプロセッサ「SoFIA」は、Intelの長年の顧客でもあるASUSに採用されたものの、中国の新興メーカーのデザインウィンは獲得できていない。タブレット市場ではIntelの形勢はさらに不利だった。アナリストらは、Intelはタブレット市場のシェアを獲得するために資金を失っている、と分析した。
2015年、IntelのCEOであるBrian Krzanich氏は、モバイル事業の混乱を収拾すべく、Qualcommの幹部だったVenkata “Murthy” Renduchintala氏を雇用した。そして2016年4月、Intelはモバイル向けSoC事業の打ち切りを決定したのである。
Krzanich氏率いるIntelは、組み込み用SoC「Quark」という名のボードで、IoT(モノのインターネット)の海へとこぎ出している。だがQuarkは、幾つものIoT向けプロセッサ/SoCがひしめく市場のうちの、たった1製品にすぎない。
Intelは、人員削減とSoC製品群の整理を行っている。次なる疑問は、Intelが諦めざるをえなかったスマートフォン市場に代わる、成長市場とトレンドは一体何か、ということである。
【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】
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