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防虫剤の「ナフタレン」から大容量負電極が誕生:黒鉛の2倍以上の容量(2/2 ページ)
東北大学は2016年5月14日、全固体リチウムイオン電池用負電極材料として、黒鉛電極の2倍以上の電気容量を実現する新材料を開発したと発表した。
ナフタレンを環状に
穴あきグラフェン分子は、衣類用防虫剤としても広く使用されるナフタレンを環状に連ねたもので、分子中央部にナノメートルサイズの孔を持つ。研究チームは、粉末X線回折という手法を使うと、穴あきグラフェン分子が積層しながら中央にある孔がそろうことを解明。これにより、穴あきグラフェン分子の固体では、黒鉛に似た積層構造に加え、それを貫く細い孔(細孔構造)をつくることができた。
新負電極分子材料「穴あきグラフェン分子(CNAP)」固体の中の「リチウムの蓄積場所 兼通り道(黄色部分)」(左=斜め横から見た図 / 右=炭素原子の大きさを球で示した図)。穴あきグラフェン分子中央の「孔構造」が並ぶことでつくられている。リチウムは、この孔部分と穴あきグラフェン分子の間の隙間部分に蓄積される。灰色部分が穴あきグラフェン分子(CNAP) (クリックで拡大) 出典:東北大学
「隙間と細孔」で
従来の黒鉛は、炭素膜が積層した構造の「隙間」にのみリチウムが蓄積する。穴あきグラフェン分子では、精密に設計されたナノサイズの「隙間と細孔」の2つの場所にリチウムが蓄積されるため、大容量化につながったとみられる。
新負電極分子材料の動作想定図。リチウム(黄色)は、孔(青色)を通って取り込まれ、穴あきグラフェン分子の間にある隙間と孔部分の双方に蓄積される。この蓄積によるリチウムの量は既存の黒鉛電極の2倍以上にも及ぶ。上図は蓄積場所・通り道を示した全体図。下図は穴あきグラフェン分子とリチウムの相互作用を詳細に示した模型図 (クリックで拡大) 出典:東北大学
今回の成果について研究チームは「防虫剤として良く知られた分子『ナフタレン』だが、それを化学の力により『大容量電池のための材料』に変換できることが示された。わが国が最先端の研究力を誇る有機化学の力により、近い将来、高性能電池のための分子材料が自在に設計されることを期待させる成果」とコメントしている。
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