Appleが中国の配車サービス大手に10億ドルを出資:自動運転車市場の参入に向けて着々と準備?
Appleが、中国の配車サービスを手掛けるDidi Chuxingに10億米ドルを出資する。これによってAppleは、中国での配車サービス関連の情報を集めるとともに、自動運転車市場に参入する市場機会を探るのではないかとみられている。
Appleは、中国の配車サービス大手Didi Chuxing(滴滴出行)に10億米ドルを出資したと発表した。IHS Automotiveのインフォテインメント&ADAS(先進運転支援システム)部門でリサーチディレクターを務めるEgil Juliussen氏は、「このニュースは自動車業界の関係者を驚かせるとともに、Appleの手の内を明らかにした」と述べている。同氏がEE Timesに語ったところによると、「Appleは現在、自動運転車を開発している」という。
Appleは10億米ドルという多額の資金を投じて、中国国内での配車サービスに関する情報の獲得や将来的なロボットカーの展開拠点の構築、政治・経済の両面でのより強固な地盤の確立を進めていく計画だと思われる。
Alibaba GroupとTencent Holdingsから支援を受け、タクシー配車市場で最大シェアを誇るDidiは、中国経済の希望の星だ。
Reuters(ロイター通信)は、「Didiの評価額は200億米ドル以上に急上昇している」と報じている。同社の評価額は現在、中国の技術系新興企業でXiaomiに次ぐ第2位につけているという。
このように好調なDidiだが、中国国内での配車サービスとネットワークの拡大をめぐるUberとの争いは過去1年間、より一層激化している。こうした状況を考えると、Appleの出資はタイムリーな支援だったといえるだろう。
北京は今、市をあげて高価値サービスの推進に取り組んでいる。こうした中、DidiがUberとのバトルに勝利することは、中国経済にとって重要だと考えられる。
業界関係筋は、Didiとの契約はAppleにとって、より重要な意味を持つとみている。Appleは中国での事業拡大に向けて、中国政府に歩み寄る策を模索している。
Juliussen氏は、「欧米企業が中国で成功するには、中国企業との合弁会社の設立かパートナーシップの構築が必須だ」と述べている。
なぜ配車サービスに出資したのか
Appleの最終目標が自動運転車だとすれば、なぜ今回、配車サービス事業への出資という形を取ったのだろうか。
Juliussen氏によると、「Uberは独自に、自動運転車の研究開発を行っている。General Motors(GM)は2016年前半に、配車サービス大手のLyftに5億米ドルを投資すると発表した。さらにGMは、自動運転車を使ったオンデマンド配車サービスを開発する計画を明らかにしている」という。
同氏は、「AppleはDidiとの提携によって、Didiの配車サービスアプリケーション開発を支援し、Uberのアプリケーションに勝る製品を生み出したい考えだ」と説明している。
さらにAppleは、Didiとの提携によって、自動運転車市場への参入の機会をうかがうこともできる。
現時点では、自動運転の開発はUberが優勢だといわれている。特に、顧客や配車の頻度、ルートなどの配車サービスに関する情報を蓄積している点が有利に働いていると考えられる。Juliussen氏は、「配車サービスの企業が自動運転車を導入するには、こうした情報の獲得が重要だ」と指摘した。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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