1cm角の全固体リチウムイオン電池、IoT向けに発進:実用化が現実的に(2/2 ページ)
英国のIlika Technologiesが、1×1cmと超小型の全固体薄膜リチウムイオン電池を発表した。容量は250μAhで、環境発電技術と組み合わせて、まずはIoT(モノのインターネット)機器をターゲットとする。
滑らかな表面が鍵に
Stereaxの開発には、HT-PVDが次の2つの点で大きく貢献した。1つ目は、電解質/電極に最適な材料を開発できたこと。2つ目は、HT-PVDでは表面が滑らかな薄膜を作成できるということだ。Stereaxは、まずは正極を形成し、その上に電解質、負極を重ねていく。その際、表面の凹凸が少ないほど膜厚は薄くなる。膜厚が薄いほどイオンは速く移動できる。つまりイオン伝導度が高くなるので、電解質としては薄いほど性能がよくなるのだ。
StereaxをHT-PVDで製造する場合、現時点では1ウエハー当たり数日かかるという。ただし、HT-PVDはあくまで研究開発用の装置であり、OEMがStereaxを量産する時はHT-PVDを製造ラインに合わせて最適化した装置を使えばいいとHayden氏は説明する。
積層して容量増加も可能に
今後のロードマップとしては、3つの方向を目指す。1つ目はさらなる小型化だ。現在は1cm角だが、それを1mm角まで小型化するのが目標だという。これくらい小型になると、医療用カメラのバッテリーなどに使える可能性も出てくる。
2つ目は、容量を増加するためにバッテリーセルを積層することである。「現時点では容量を4倍(4層を積層)くらいにまでは、できると考えている」(Purdy氏)。ただし、積層すると歩留まりが下がっていくので、容量と歩留まりのバランスを考慮する必要があるという。さらに、イリカのビジネス開発ディレクターである南舘通氏は、低温環境で薄膜を積層できるHT-PVDがあるからこそ実現できると話す。「一般的に薄膜電池を積層するには高温のプロセスが必要だが、高温の環境では下層の電池を痛めてしまい特性が出にくくなる」(同氏)。
3つ目として、高温環境への耐性を挙げた。自動車や飛行機のエンジンなどに使われる場合を想定し、最大250℃の動作温度の実現を目指すという。
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