Cymbetの全固体リチウム二次電池、IoT市場が追い風に:ビジネスニュース 企業動向
Cymbetが開発を手掛ける全固体リチウム二次電池は、5μAhや50μAhなど容量が小さいものだ。環境発電やモノのインターネット(IoT)の時代が本格的に訪れつつある今、同社の製品に対する潜在的なニーズは高い。
リチウムイオン電池の置き換えを狙う
米国ミネソタ州に本拠地を置くCymbetは、全固体リチウム二次電池を量産する唯一のメーカーだ。モノのインターネット(IoT)やウェアラブル機器など、小型かつ低消費電力がこれまで以上に求められる分野の成長が、同社の追い風となっている。CymbetのCEO(最高経営責任者)を務めるBill Priesmeyer氏は、「市場がわれわれに近づいてきた」と語る。
現在、さまざまな機器で一般的に使用されているコイン型リチウムイオン電池。軽く、高い電圧が得られて自己放電も少ないといった利点がある一方で、使い捨てで、漏液や破裂、発火といった危険性も含んでいる。米国政府は、環境面での影響や安全性といった理由から、リチウムイオン電池を全固体リチウム二次電池に置き換えるべく、研究開発を行ってきた。Cymbetは、政府からライセンスを受けて全固体リチウム二次電池の開発を手掛けるに至った。
Cymbetは、全固体リチウム二次電池をSi(シリコン)ウエハー上に製造し、パッケージングした「EnerChip」の他、EnerChipにリアルタイムクロック、パワーマネジメントICを5×5mmのQFNパッケージに同梱した「EnerChip RTC」などを提供している。EnerChipのサイズは4×5mm〜8×8mmで、容量は5μAhから20μAhまでをそろえている。EnerChipはベアダイでも提供可能で、この場合の容量は1μAh、5μAh、12μAh、50μAhになる。さらに、EnerChip/EnerChip RTCを搭載した開発キットも提供している。
埋め込み型医療機器の開発に引く手あまた
EnerChipやEnerChip RTCは非常に小型ゆえに、埋め込み型やウェアラブルな医療機器の開発には、さまざまなところで採用されている。
例えば、IMECの研究者は、ディスプレイを内蔵したコンタクトレンズの開発を手掛けているが、そのコンタクトレンズにCymbetの電池が搭載されている(関連記事:スマートメガネはもう古い!? “スマートコンタクト”の開発進む)。
米国ミシガン大学は、緑内障の患者向けに、眼球に取り付けて眼圧を定期的にモニタリングする超小型機器を開発中だ。同機器は、太陽光パネルで電力を生成し、CymbetのEnerChipに供給する仕組みになっている。
IoTが追い風に
上記のように、超小型で低消費電力の機器に適しているEnerChipだが、一般的な機器で使うにはどうしても容量が小さいので、リチウムイオン電池を全面的に置き換えるのは、まだ難しい。
だが、IoTをはじめ、ヘルスケアや医療で使われるウェアラブル機器、環境発電といった、超低消費電力の機器が使われる分野が成長し始めていることが、Cymbetの追い風となっている。特にIoT市場は成長が著しく、米国の市場調査会社であるIDCは、IoT市場は2020年までに8兆9000億米ドルまで拡大すると予想している。小型の全固体リチウム二次電池を地道に開発してきたCymbetだが、Priesmeyer氏は、「市場の方が、ようやくわれわれが提供する技術に近づいてきた」と語る。
とはいえ、やはり容量の増加に対するニーズはある。今後は、小型という特徴は維持しつつ、容量を上げていくという。現在の製品ラインアップでは50μAhが最大だが、2014年には100μAh品を発表したいとしている。さらに、その4倍となる200μAh品も開発中だ。
日本は「非常に重要な市場」
Priesmeyer氏は、日本を「非常に重要な市場」と位置付けている。「巨大な市場規模を持つ中国や、日本企業などが製造拠点を移している東南アジアなど、アジアは重要な地域だが、われわれが重要だと考えているのは“革新的な技術を生み出せる国”だ。日本は医療やIoTの分野で最先端をいく開発が進められている。例えば、EnerChipの製品群を使ってIoTやウェアラブル機器向けのモジュールを開発するようなパートナーを日本で見つけたい」(同氏)。
なお、日本では、グローバル電子や丸紅情報システムズ、アヴネットがCymbetの製品の販売を手掛けている。
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