GoogleからAI用プロセッサ「TPU」が登場:ひた隠しにしてきたプロジェクト(2/2 ページ)
Googleが、人工知能(AI)に向けたアクセラレータチップ「Tensor Processing Unit(TPU)」を独自開発したことを明らかにした。同社が2015年にリリースした、オープンソースのアルゴリズム「TensorFlow」に対応するという。
3年前に火が付いた開発プロジェクト
今回のGoogleのニュースは、ここ数年間のコンピューティング市場について幅広い討論が行われているさなかに発表された。畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)など、現在台頭しているAIアルゴリズムを加速させていくための最良の方法について、議論が繰り広げられているところだった。MicrosoftとBaiduは現在のところ、クラウドサービスでFPGAアクセラレータを使用する考えのようだ。その他、Facebookは、GPUアクセラレータを開発し、オープンソースで提供している。
TPUは今から3年ほど前に、人間と同程度またはそれ以上の画像認識能力を実現できることが明らかになって以来、開発の勢いに火が付いた。AlphaGoも、碁という複雑なゲームを制したという意味で、Googleにとって1つのマイルストーンとなった。
Googleは、この新チップの詳細については明らかにしていない。Pichai氏は、「TensorFlowアルゴリズムはソースコード共有ツール『GitHub』で最も人気の高いプロジェクトの1つになった」と述べている。
同氏は、「TPUチップによってGoogle Cloud Platformの差別化をさらに促進できると期待している」と語っている。ただし、Googleは同チップを商用化する計画はないという。
Pichai氏は、AIを活用したGoogleの開発プロジェクトについても紹介した。具体的には、より精密なロボットアームや糖尿病性失明の防止を支援する早期診断システムの開発に取り組んでいるという。
同氏は、「コンピューティングの時代を生きる私たちに求められているのは、かつては不可能と考えられてきたことをAIの活用によって可能にすることだ」と述べ、基調講演を締めくくった。
TPUは3世代先を行く?
米国の市場調査会社であるTirias Researchで主席アナリストを務めるKevin Krewell氏によると、Googleは、“TPUは他社の3世代先を行く”と主張しているという。Krewell氏は、「TPUは特定用途向けに、16ビット浮動小数点あるいはそれ以下の精度の演算用に最適化していると思われる」と述べている。
同氏は、「TPUは、CNNの学習機能よりもインタフェースの開発に注力しているようだ。インタフェースには学習機能ほど複雑な計算は必要とされない。Googleは方程式の計算プロセスを最適化したと考えられる」と述べている。
「学習機能には、非常に多くのデータが必要になる。TPUは、学習機能については最適化されていないと思われる。NVIDIAの新世代GPU『TESLA P100(開発コード名:Pascal)』はこの点で、Googleに実現できていない機能を持った製品だといえる」(Krewell氏)
VR技術開発も加速
Google IOでTPUに関する発表以上に驚いたのは、GoogleがVR(Virtual Reality)やスマートホーム、スマートウォッチなどの分野で、ライバルであるAmazonやApple、Facebookが買収したVR向けハードウェアメーカーのOculusなどに追い付きつつあることだった。
VRに関しては、Googleは独自のハードウェアを開発する計画で、既に「Android N」のβ版で動作するVRヘッドセットとコントローラーのレファレンス設計を発表している。VRヘッドセットとコントローラーは、2016年秋に発売予定である。
Googleは、Androidスマートフォン向けVRプラットフォーム「Daydream」の開発プロジェクトの一環として、端末/チップメーカーと協力し、Daydreamに対応したスマートフォンの仕様策定も進めている。Daydream対応スマートフォンは、HTCやHuawei、LG Electronics、Samsung Electronixc、Xiaomiから2016年秋にも発売される予定だ。
Googleによると、「Android Nでは、VRの遅延時間がわずか20ミリ秒に抑えられる」という。同社は現在、ゲーム会社や映画会社と協力してAndroid N対応のVRゲームおよび映画の開発に取り組んでいるという。
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- すでに夢の推定も、次世代AIとして研究進む“脳”
情報通信研究機構(NICT)は2016年4月、第4期中長期計画のスタートにおける3つの強化策の発表とともに、「脳をリバースエンジニアリングする」と題して、脳と研究成果の発表を行った。 - AIの“苦悩”――どこまで人間の脳に近づけるのか
人工知能(AI)の研究が始まった1950年代から、AI研究の目的は「人間の大脳における活動をいかにコンピュータ上で実現させるか」だ。大手IT企業や大学の努力によって、AIは少しずつ人間の脳に近づいているのは確かだろう。一方で、自然言語処理の分野では、“人間らしさ”を全面に押し出した「人工無能(人工無脳)」も登場している。 - GoogleのAIに望むこと――“人間を賢く”
Googleの人工知能(AI)「AlphaGo」は、韓国のトップ棋士と対戦し、3連勝した。囲碁や将棋、チェスなどにおいてAIがいずれ人間に勝つであろうというのは、誰しもが予想していたことだろう。だが筆者にAIに望むのは、「人間よりも賢くなること」ではなく、「人間を賢くしてくれること」である。 - 女子高生AI「りんな」は感情的なつながりを生む
マイクロソフトは、同社のAI研究/開発の取り組みについての説明会を開催した。パーソナルアシスタント「Cortana」から、会話をリアルタイムに翻訳する「Skype Translator」などのサービスを紹介。中でも注目を集める、同社が2015年7月に発表した女子高生AI「りんな」について紹介する。