統合に向かう半導体業界
半導体業界は2015年、大規模な合併買収の波に襲われ、未知の領域へと足を踏み入れた。これまで60年以上にもわたって細分化されてきた半導体業界は、今や統合の方向に向けて、重要な第一歩を踏み出したことになる。
こうした傾向は、半導体業界のように、成長率が伸び悩み、さらなるROI(Return On Investment/投資利益率)の向上を実現するためには成長達成よりも効果的な合併買収に依存しなければならない状況にある業界にとって、避けて通れない成熟期に入ったことを示しているのではないだろうか。
統合の推進力となるものは
通常、統合の推進力となるのは、大規模な規模の経済によって得られる効率性だ。多くの業界において最も重要視されるのが、規模の経済を生み出すことである。これは、半導体業界のIDM(垂直統合型)半導体メーカーにも当てはまる。しかし、半導体業界全体に占めるIDMのシェアは、縮小の一途にある。現在、半導体業界のシェアの大半を、メモリメーカー、IntelやSamsung Electronicsなど数社の大手IDMの他、アナログ/ミックスドシグナルやRF、パワー半導体のような、プロセスが細分化された製品を手掛けるメーカーが占めている。
今や、半導体業界全体の30%がファブレス企業だ。ファブレス企業の合併によって生み出される規模の経済は、非常に限られている。例えば、2社の大規模な半導体メーカーが合併した場合、その合併企業がウエハー工場や組み立て工場、試験下請け工場などから受ける数量割引には、それほど大きな違いがない。合併によって数量が増加しても、割引の増分はほんのわずかにとどまる。
企業規模と利益性に相関なし
もちろん製造コストは、合併によって生じる数量の影響によるメリットのうち、ほんの一部にすぎない。合併によるコストメリットは、相乗効果と見なされる場合が多いが、そこにはさまざまな種類の規模の経済が含まれている。このようなコストメリットと半導体メーカーの規模との間には、何らかの相関関係があるように見える。しかし驚くことに、そのような関係性は全く存在しないのである。
トップ130社の半導体メーカーを5年間追跡したデータを見ると、企業規模と利益性の間には何の関係性もないことが分かる。1次回帰係数0.0544は、相関関係が全くないことを示している。
最も利益性の高い半導体メーカーを比較してみても、この結論は変わらない。業界最大手のIntelは2014年に、売上高が560億米ドル、営業利益が28%と、非常に優れた業績を上げている。しかしLinear Technologyは、売上高が14億米ドルでありながら営業利益が46.3%、Xilinxも、売上高24億米ドルで営業利益32%を達成している。
どうやら、半導体業界を買収合併へと後押ししている要因は、規模の経済を達成するためではないようだ。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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