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消えぬ“もやもや”、現場の本音はなぜ出ない?“異端児エンジニア”が仕掛けた社内改革、執念の180日(2)(4/4 ページ)

エンジニアとしての在り方や、現場の“言われっ放し感”に悩む技術部の須藤。同期に相談しても、“もやもや”とした感情は募るばかりだ。企画部課長の佐伯は、そんな須藤に、価値を作るとは何か、自分たちを取り巻く組織の風土とは何かを説いていく。

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組織風土とは何か

 図3をご覧いただきたい。

 これは「組織の氷山モデル」と呼ばれるものだ。ご存じのように、氷山は、水面上に浮かぶ、目に見えている氷よりも何倍も大きい氷が水面下に存在する。


図3 氷山モデルから見た組織の「ハード」と「ソフト」(クリックで拡大)

 水面上にあるものは、目に見える。これを筆者は「ハード部分」と呼んでいる。マネジメントの大きなくくりでは、「方針」「戦略」「仕組み」「システム」「制度」「プロセス」などが該当する。「業務改善・業務改革」「人事評価制度刷新」など、具体例を図中にもいくつか示した。

 もう1つが、水面下で目に見えない「ソフト部分」だ。3階層に分かれていて、エンジニアの皆さんにもイメージしやすいと思うが、“組織のOS層”の上にアプリケーション層である“暗黙の判断・常識層”と“現象層”が乗っかる構造だ。

 細かく書いてあるので、まずは赤文字だけ注目していただければよい。例えば、お互いに無関心、けん制し合う関係性だと「どうせ言ってもムダ」「言い出しっぺが損をする」「出る杭は打たれる」ということになる。誰も好きこのんで打たれたくはないので、与えられた仕事のみをこなすことに専念する、といった行動をとりがちになる。その結果、自分から能動的に意見や考えを述べない「指示待ち」が増加する。「セクショナリズム(部門間の壁)」もできる。すると、情報、特にマイナスの情報が流れにくくなるということが起こる。つまり、ホンネが出てこなくなるということだ。

 こう考えていただきたい。

 企業は図3で示す「ハード部分」は一生懸命に施策を打つ。しかし、これらの施策を実行するのは人間だ。当然、人間関係や気持ちは大きく影響する。ギスギスした職場でいい仕事などできるわけがない。その領域が「ソフト部分」だ。PCのように、箱物の「ハード」と「ソフト」の両方があって初めて機能する。箱物があっても魂がなければ人は動かない。

 残念ながら、世の経営者の多くは「ハード」のみに着目し、うまくいかなくなってから「ソフト」が大事だったとのたまうことが多い。第1回で示した企業不祥事で「組織風土」のことに触れなかった企業は1社もない。今ようやく、この根の深い組織風土の影響について、企業経営者が気づいてきたようだが、問題はどう変えるか、である。これはおいおい話していこう。

ほころびの前兆

 舞台は湘南エレクトロニクスに戻る。

 ある時、技術部開発課で選定した部品に、設計要求に満たないものが使用されていたことが発覚する。それだけでなく、顧客へ納入時に製品に添付する試験成績書のデータ改ざんも見つかった。どうやら、製造部と海外工場で何かが起きているようだ。

 さらに、これらの不正行為(スペック不足の部品使用、データ改ざん)がどこかから漏えいしてSNS上に出回り、一気にマスコミの目にさらされることになる。

 須藤は、会社の存続そのものを揺るがす事態に巻き込まれていく――。


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Profile

世古雅人(せこ まさひと)

工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を開発設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画業務や、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。

2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱。2012年からEE Times Japanにて『いまどきエンジニアの育て方』『”AI”はどこへ行った?』『勝ち抜くための組織づくりと製品アーキテクチャ』などのコラムを連載。書籍に、『上流モデリングによる業務改善手法入門(技術評論社)』、コラム記事をまとめた『いまどきエンジニアの育て方(C&R研究所)』がある。


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