AIで働く人々は幸福になれるのか:日立製作所の矢野和男氏に聞く(3/3 ページ)
日立製作所は2016年6月、AI技術を活用し、働く人の幸福感向上に有効なアドバイスを、各個人の行動データから自動で作成する技術を発表した。今回の発表に伴い、ソーシャルメディア上では、AIに対する期待と不安の声が混じっている。AIは私たちの幸福感を高めてくれるのだろうか。そこで、このAIを活用した技術を開発した日立製作所の矢野和男氏にインタビューを行った。
自動で学習し、“賢く”なる
EETJ AIが再びブームとなっています、Hの特徴はどこになりますか?
矢野氏 当社のHは、データから自動で学習し、“賢く”なる。特徴は3つあり、1つ目は、アウトカム(目的)と入出力を人間が定義することである。今回の場合、アウトカムは、「1人1人の幸福感の向上」である。アウトカムを基に、関連データを入れていくことで、Hが自動で学習していく。2つ目は、人の仮説や問題特有のロジックは入力不要なこと。3つ目は、既存システムに追加し、動作できることだ。
下記の映像は、Hで制御したロボットがブランコをこぐまでの過程である。Hはロボットは膝の曲げ伸ばしを制御できるが、どうやってブランコをこぐかといった知識は一切入れていない。アウトカムを「振幅を大きくすること」と設定。Hは、さまざまな膝の曲げ伸ばしのタイミングから自動で学習し、数分でこげるようになる。
汎用性を持つH
EETJ 特徴の2つ目「人の仮説や問題特有のロジックは入力不要なこと」がよく分かりません……
矢野氏 今のブランコをこぐまでの数分の間でも、膝の曲げ伸ばしのデータが何万個も存在している。このようなビッグデータの問題は、“結果のデータ”が少ないことである。つまり、何万個のデータの中でも、重要となる指標は数百個しかないのだ。
機械学習やディープラーニングなどは、何万個のデータ全てに良かったのか、悪かったのかといったラベルを付けていく。これらの技術は画像解析などに有効だが、ビジネスシーンにおける重要な指標は、結果のデータが極端に少ないため、適用が難しい。
当社は、大量の複合指標の生成と、その中から少ない重要な指標を自動で絞り込む処理を行う「跳躍学習」技術を開発した。跳躍学習は、強化学習の分野になる。しかし、現行の強化学習は、結果のデータが少ないことに対応できていない。また、特定のニーズに特化してプログラムを開発しているため、汎用的でない。
Hは、非常に汎用的に作られているため、14分野57案件で活用されているが、全て同じプログラムを活用している。これにより、機械学習やディープラーニングにおいて必要だった教師となるデータ、報酬ロジックなどが不要となっている。
共創の場を
EETJ 2016年6月には、100億円規模のIoTやAIを重視した新しい研究棟を建設すると発表しています。最後に、今後の研究開発の方向性について教えてください。
矢野氏 新しい研究棟は、顧客との“共創の場”にしていきたい。基本的な生活のインフラが整った今の社会で、従来の大量生産大量消費といった方法は成り立たなくなってきた。現在の社会は求められることが多様で、時間軸でみても非常に短くなってきている。そのため、顧客に寄り添って、需要のある研究開発を一緒にしていきたい。
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