Teslaの死亡事故、国家運輸安全委員会が調査開始:自動運転機能のソフトウェア調査に本腰か(2/2 ページ)
米国家運輸安全委員会(NTSB:National Transportation Safety Board)は、Tesla Motors(テスラ・モーターズ)の2015年モデル「Model S」が2016年5月に、オートパイロット(自動運転)機能で走行中に起こした死亡事故について、調査を開始したと発表した。
人間の能力や行動も含めて検証
ここで明確にしておくと、NTSBは全ての民間航空事故の他、鉄道、道路、海洋、パイプラインで起きた重大な事故を調査する独立した政府機関である。将来の事故を防ぐために安全勧告を出す役割も担っている。
NTSBの元長官で、現在はO'Neill and Associates のシニアバイスプレジデントを務めるPeter Goelz氏は、EE Timesによるメール取材の中で、「これまで長い間、表面的な事故の調査はNTSBの任務の1つだった。NTSBの取り組みによって、安全性の向上が国策となったケースは数多い」と述べた。
Goelz氏によると、中でも注目すべきは「NTSBが始めた調査の結果、エアバッグの押圧力を低減するよう規制が変更されたこと」だという。
NTSBとNHTSAによる調査の本質的な違いの1つとして、NTSBの方がより幅広い層の問題をさらに全体的なアプローチで調査することが可能な点がある。
Goelz氏はNTSBが「運転者と自動操縦技術の相互作用」を検証する予定であると述べた。具体的には、NTSBは地形に注目し、地形と事故の相互関係に目を向けるようだ。
Goelz氏は、俳優でコメディアンのTracy Morgan氏を襲った最近の事故を例として挙げた。Goelz氏は「Morgan氏のリムジンに激突したトラックは、自動ブレーキシステムを搭載していたにもかかわらず、衝突を緩和するのに失敗したようだ。それはなぜか」と問いかけた。その上で、これまで数々のバス事故も調査してきたNTSBは、そのような事故の背景に非常脱出やドライバーの疲労といった要因があると見ていると説明した。
Goelz氏は、「恐らく、NTSBとNHTSAによる調査の最も大きな違いは、NTSBが技術的な問題だけでなく、人間の能力や行動も含めて検証する点だろう」と述べた。
調査官が「ドライバーはTeslaの自動運転機能にどのように反応したか」を理解しようとすると、人的要因が大きく関連してくる。NTSBによる自動運転車に関する安全勧告の目的は、ヒューマン・マシン・インタフェースの問題に基づいているようだ。
困難を極めるソフトウェアの調査
トヨタの急加速問題を追ってきた人であれば、トヨタの電子スロットルに関係するソフトウェアを調査するのがいかに難しかったかを思い出してほしい。
NHTSAが調査をNASA(米航空宇宙局)に引き渡した後、NASAのエンジニアでさえも時間が足りず、急加速を引き起こした原因を見つけることはできなかった。だが、NASAはソフトウェアを原因の候補から除外することは拒否した。
NASAのこの仮説は、組み込みソフトウェアのエキスパートであるMichael Barr氏によって正しいと証明された。Barr氏はトヨタの電子スロットルの全てのソースコードを調べ上げ、欠陥を見つけ出したのである。同氏はこの調査に、実に20カ月を費やした。
Teslaの事故が起こる前に、NHTSAは、2016年夏に自動運転車に関する自主ガイドラインを発行すると発表している。米運輸省長官のAnthony Foxx氏は、自動運転車のテストと規制についてまとめたガイドラインの草案を作成するために、運輸省に6カ月の期間を与えると話していた。
【翻訳:青山麻由子、田中留美、編集:EE Times Japan】
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