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始まった負の連鎖“異端児エンジニア”が仕掛けた社内改革、執念の180日(3)(3/5 ページ)

ある朝、顧客から入った1本のクレーム。湘南エレクトロニクスが満を持して開発した製品が、顧客の要求スペックを満たしていないという内容だった。その後、調査が進むにつれて、さまざまな問題が明らかになり、社員は“犯人探し”と“自己防衛”に走り始める――。

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相次ぐボロ――試験成績書のデータ改ざん

 皆が会議室を出ようとしていたまさにその時、製造部部長の大杉昇(55)と品質保証部課長の小山和夫(45)が息を切らせて会議室に入ってきた。大杉も藤田と似たところがあり、自部門の損得を最優先させることで知られている。従って、製造部の部下からの信頼は厚い。一方、小山は品質保証規格ISO9001の準拠に命を賭けているようなタイプの人間で、DR(Design Review)のたびに技術部に不可解な要求を突き付ける。両者ともに須藤が大嫌いなタイプだ。

小山:「今、CG社からさらにクレームが入った。残った4台のDVH-4KRの衝撃試験をしたところ、当社から提出した試験成績書の数値を全数、クリアしなかったらしい。製品の外観にクラックが入ったと、先方はカンカンだ」

大杉:「一体どうなっているんだ?」

城崎:「設計課で筐体設計も行っているが、出荷した製品の試験成績書を見せてくれないか?」

小山:「これだが……」(試験成績書を手渡す)

城崎:「これはおかしいぞ! この3つ目の落下試験の数値には、MILスペック(MIL規格:Military Standard/Specification)並みのデータが書かれている。製品の4面を角から落下させてから動作保証を行うものだ。そもそも、MILスペックじゃなかったはずだ。いつの間に、MILに要求スペックが引き上げられ、さらにこのスペックをクリアしたかのような数値になっているんだ? これじゃ、データ改ざんみたいじゃないか」

中村:「どういうことだ?」

小山:「よく分からないですが、CG社いわく、試験成績書の記載事項に虚偽があると言っています。さらに、今回のエバは当社の競合企業でもあるプレシジョンイメージング社(以下プレ社)との事実上のコンペで、プレ社はいずれのエバも要求を満たし、試験成績書も問題がないようです」

大杉:「だったら、CG社の今後の発注をプレ社に取られる可能性もあるじゃないか」

小山:「どちらにしても、CG社は、当社がプレ社を出し抜くために工作をしたと見ているようです」

中村:「社長には報告してあるよな? それで、電子デバイスに設計とは異なる部品が使われていて、ダイナミックレンジ不足と言ってきている原因は分かったのか?」

小山:「それは真っ先に社長には報告しています。デバイスについてですが、A-Dコンバーターが“共同購入仕様書”と“特注購入仕様書”のそれぞれで手配が出ており、そのまま製造されて、エバに持ち込まれたようです。出荷前の社内検査で引っ掛からなかったのは、CG社ではダイナミックレンジを評価する検査環境が整っていなかったので、この検査工程を省いて出荷したようです。それと、全台数とも製造は海外子会社の湘エレAsiaで行われています」

大杉:「俺はそんなこと指示していないぞ!」

森田:「良かったな、須藤。お前のせいじゃなさそうだ……」

 「ばからしい」。須藤は先日の会議のことを思い出していた(第1回参照)。あの時、思わず「いつからこんな腐った会社になってしまったんだ」と言い放ってしまったが、今もその気持ちは変わらない。「どいつもこいつも腐ってやがる」。俺たちがどんな気持ちで新製品開発に心血を注いだかなど気にも留めず、“犯人探し”ばかりしている。今は、そんなことを話している場合じゃないのだ。企画部の佐伯課長と話をしていた、「製品の価値」(第2回参照)の実現には、まだ程遠いと、須藤はため息をついた。

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