幽霊や極低温原子、FPGAを手軽に使って処理:ミリ波レーダーと量子コンピュータ(3/4 ページ)
大量のデータから目的の情報を得る、極めて複雑な設定条件から正しい組み合わせを見つける。ミリ波レーダーや量子コンピュータの開発課題だ。National Instruments(NI)の年次カンファレンス「NIWeek 2016」(テキサス州オースチン)では、このような開発事例を3日目の基調講演において複数紹介した。
原子を扱う最適な手法を探し出す
「陽子ビームを用いて4ナノケルビン(10億分の4度)という極低温まで真空チャンバー内の原子を冷却し、量子ビット同士の望ましい相互作用を起こすことが目的だ」(デンマークのオーフス大学のassociate professorであるJacob Sherson氏、図6)
量子コンピュータの基礎は、同時に2つの状態を重ね合わせることが可能な量子ビット(Qubit)にある。量子コンピュータでは、真空中に浮かんだ単一の原子を量子ビットに用いることが多い。
通常の素子は0か1かどちらかの値を採る。量子ビットの力は、原子の数が増えるに従って急速に高まる。1原子なら2状態の重ね合わせだが、4原子なら8状態ではなく、16状態に増える。「扱う原子を増やしていくと、指数関数的に性能が高まる。300原子を扱うことができれば、十分な計算能力を得ることができるだろう」(Sherson氏)。同氏は300原子からなる結晶を利用する予定だ。
まずは、多数の孤立した原子を外部からのノイズ(擾乱:じょうらん)を避けつつ、操作する技術が求められる。原子を格納するチャンバーの温度を4ナノケルビンにまで冷却するのはそのためだ。
「われわれのチャレンジは『原子状態が跳ねる』(atom slosh、図7)ことを防ぎつつ、高速に原子を制御することにある」(同氏)。原子を乱暴に操作すると、量子状態が崩れてしまう。これはちょうど水の入ったグラスを運ぶ際に、特定の動きを選ぶと水がこぼれてしまうことに相当する。バイクで出前の料理を運ぶ際に「岡持ち」を使うと、運転に気を使わなくても汁物がこぼれることはない。Sherson氏の目標は、このような岡持ちを作り上げることにある。
Sharson氏の岡持ちは、非常に細いレーザー(図8)。どのように検出器とレーザーを制御すれば原子状態の跳ねを適切に利用できるのか。さまざまなアルゴリズムを適用し、複雑な状況に対応するにはどうすればよいか。「1つの検出器には32のアナログチャンネルと、40のデジタルチャンネルがある(図9)。研究を行う学生には、さまざまな制御アルゴリズムを試すことができるシステムが必要だ。それが、FPGAを制御するLabVIEWである」。
同氏によれば、図10に示した真空チャンバー内に原子を格納し、電磁界を操作することで、制御とモニターを進める。さまざまなアルゴリズムを試すためには、学生が容易にプログラミングできるシステムが必要なのだという。
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