「縮環チオフェン」を簡便かつ短工程で合成:合成法の決定版、有機半導体の開発を加速
名古屋大学の伊丹健一郎教授らによる研究グループは、有機半導体に欠かせない分子群である「縮環チオフェン」を簡便に、かつ短い工程で合成できる新反応を開発した。
工程数は最短2段階、従来の5〜6段階から大幅短縮
名古屋大学大学院理学研究科、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)、統合物質創製化学研究推進機構の伊丹健一郎教授、瀬川泰知特任准教授、孟令奎博士らの研究グループは2016年8月、有機半導体に欠かせない分子群である「縮環チオフェン」を簡便に、かつ短い工程で合成できる新反応を開発したと発表した。
今回の研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業総括実施型研究(ERATO)の、「伊丹分子ナノカーボンプロジェクト」(研究期間は2013年10月〜2019年3月)として取り組んでいる。
縮環チオフェンは、硫黄と炭素からなる5員環「チオフェン」を含む芳香族化合物である。トランジスターや有機薄膜太陽電池、有機ELなどの電子デバイス製造に欠かせない材料となっている。柔軟性にも優れているため、ウェアラブルデバイスなどの用途でも注目されている化合物である。ところが、縮環チオフェンを得るための「チオフェン縮環反応」はこれまで、複数で煩雑な工程が必要であった。
研究グループは、極めて簡便な方法を用い、芳香族化合物にチオフェン環を連結させて縮環チオフェンを得る新しい反応を開発した。それは、容易に入手できる1置換芳香族化合物を有機溶媒中で硫黄と混ぜて、加熱しながらかき混ぜるだけの簡便さである。1置換芳香族化合物は、芳香族化合物に対してパラジウム触媒による薗頭カップリングを行うことで簡便に合成することが可能である。
開発した方法を用いると、本来反応性が低い炭素−水素結合を切断することができる。このため、反応性の高い原料を別途合成する手間を省くことが可能となる。この結果、チオフェン縮環反応を行うために、従来は5〜6段階を必要としていた工程を、最短2段階に短縮することができる。高価な試薬も不要になるという。
開発した反応手法は、芳香族炭化水素に限らず、各種チオフェン誘導体に対してもチオフェン縮環反応が可能だという。研究グループは、開発した手法を用いて、実際に20種類の新しい縮環チオフェンの合成を行った。導入したアルキン部位の数だけチオフェン環を縮環することができることから、複数のチオフェン環が縮環した芳香族化合物を迅速に合成することが可能だという。
さらに、1分子に対してチオフェン環が2つ、3つ、5つ縮環した分子や、有機電界効果トランジスターの材料として最高レベルの性能が報告されている分子についても、簡便に合成することに成功した。
研究グループは今回、縮環チオフェンの簡便な合成法を確立できたことで、多様な材料候補分子を簡便に供給することが可能となり、新たな有機半導体開発に弾みがつくとみている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 共有結合性有機ナノチューブ、簡便な合成法開発
名古屋大学の伊丹健一郎教授らによる研究グループは、カーボンナノチューブに類似した筒状の新しい有機ナノチューブを簡便に合成する方法を開発した。 - 4人の研究から始まった山形大発プリンテッドエレ
山形大学有機エレクトロニクス研究センター(ROEL)の時任静士教授と熊木大介准教授らは2016年5月、プリンテッドエレクトロニクスの研究開発成果を事業展開するベンチャー「フューチャーインク」を設立した。時任氏と熊木氏に、今までの研究内容や今後の事業展開について話を聞いた。 - 日本は「子どもの人工知能」で世界と戦え
人工知能(AI)に関わる研究者らは2016年4月、東京都内で「これからの技術開発の方向」についてパネルディスカッションを行った。本記事では、その議論の一部を紹介する。 - 従来比10億分の1で動く分子センサー、単位はpJ
九州大学の柳田剛教授らの研究グループは、従来の10億分の1のエネルギーで駆動する分子センサーの開発に成功した。化学物質をモバイル端末で検知するといった応用が期待されるという。