富士通の居眠り検知センサー、なぜ耳たぶなのか:IoTデバイスの開発秘話(1)(3/3 ページ)
2016年1月に起こった軽井沢のスキーツアーバス転落事故以降、長距離高速バスや貨物自動車の安全対策が問題視されている。ドライバーの居眠り対策もその1つだ。そうした中で富士通は、居眠り検知のウェアラブルセンサーとして「FEELythm(フィーリズム)」の展開を始めた。FEELythmが面白いのは、腕でもなくメガネとしてでもなく、“耳たぶ”に装着することだ。なぜ、耳たぶを選択することになったのだろうか。FEELythmの販売推進に携わっている楠山倫生氏に話を聞いた。
高速バス会社へ採用が決定
楠山氏は、FEELythmで居眠り運転の予兆を検知することで、ドライバー本人が眠気に対する“自覚”を持つこと、管理者にとってドライバーの状態が“見える化”することが重要と指摘する。見える化したデータにより個人の特性を捉え、ドライバーの疲労軽減や、効果的な安全指導につなげることが最終的な狙いにある。
実際に、FEELythmを使用しない状態と装着している状態で比較すると(下記図)、使用しない状態では覚醒度が低下した状態が継続し、眠気による危険度が増大していることが分かる。装着している状態では、バイブレーションによる通知に反応しているため、「眠気予兆、検知での注意喚起として効果がみられた」(楠山氏)という。
![](https://image.itmedia.co.jp/ee/articles/1608/16/ts160816_FUJITSU07.jpg)
FEELythmからの通知による効果。FEELythmを使用しない状態では、覚醒度が低下した状態が継続している。急に覚醒度が上昇している部分(右側の青色矢印)は、白線を超えてしまうなどの本当に危険な状態にドライバーが気付いたときのことを指している (クリックで拡大) 出典:富士通
発表から1年以上が過ぎ、同社は販売活動を進めてきた。2016年7月には、高速バス事業を運営するウィラーエクスプレスジャパンが、同年10月までに約200台のバスへFEELythmを導入すると発表している。楠山氏は「引き合いは増えてきたが、まだ認知度が足りないのが正直なところ。安全に対する意識は高まってきているが、業界の方々がFEELythmのような機器の存在を知らない場合が多い。各地域でセミナーを開催して、徐々に認知度を上げていきたい」と語る。2018年中に、累計7万台の販売を目指す。
将来的には、健康機器のデータとの連携を行い、眠気判定データと組み合わせた分析ツールを提供予定。また、脈波は眠気以外にも「集中度」「ストレス疲労」などが検知できるため、それらを生かしたサービスも検討していきたいとした。
3種類の製品形態
FEELythmの製品形態は、富士通製デジタコと連携した車載機連携型、スマートデバイス連携型、スタンドアロン型の3種類となっている。車載機連携型のセンサー本体の価格は3万8000円で、専用のレシーバー(2万2500円)+シリアル通信ケーブル(2500円)=6万3000円が必要になる。スマートデバイス連携型のセンサー本体は5万円、Android4.4.2以上/Bluetooth4.0搭載端末のスマートフォンが必要である。オプションにより異なるが、本体価格とは別に運行管理SaaSシステムの月額費用が掛かるという。低コストで小規模運用で始めたい場合は、スタンドアロン型を選択すると良いだろう。
導入にあたっては、国土交通省が定める「過労運転防止のための機器導入に対する補助制度」が利用できる。1事業者当たりの限度額は80万円で、取得に要する経費の2分の1が補助される。つまり、デジタコ連携型の場合は1台あたり、3万1500円が補助されるのだ。募集期間は2016年7月1日〜11月30日となっているが、予算がなくなり次第終了なので注意してほしい。詳細は、国土交通省のWebサイトから確認できる。
なお、「心臓疾患やてんかんの発症前に検知できるようになるか」と聞いたところ、「眠気のデータと体の異変に相関関係が見つかったなら、可能性としてなくはない。現状のFEELythmは、それらの発症前に検知するのは難しいだろう」(楠山氏)とした。
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