今後3〜5年もスマホ向けが村田製作所の好業績を支える:村田製作所 取締役常務執行役員 中島規巨氏インタビュー【前編】(2/2 ページ)
村田製作所はスマートフォンビジネスで強気の姿勢を崩していない。スマートフォン市場が成熟期に入りつつある中で、どのように成長を図っていくのか? 通信モジュール事業などを担当する同社取締役常務執行役員の中島規巨氏に聞いた。
旬のタイミングに1番良いものを
EETJ 競合も、垂直統合化を進めている中で、これからも競合と差異化していくために必要なことはどういったことになりますか。
中島氏 通信の先読みは、難しくないと申し上げたけれども、通信の要求に対し、100点満点を取ることが難しい。その中で「どうやって競合と違いを見せていくか」がこれからの鍵になると思っている。100点、ないし、100点以上の回答をすることも狙うが、1番良い時期、旬のタイミングに対して、1番良いものを、1番小さく、1番安く提供することが重要だと思う。市場としては、他社が何を開発しているのか分かりやすい市場であり、他社にない技術、他社に勝る技術を見極めて、提供していく。
社内に技術はそろった
EETJ 他社に勝るための技術を備えるため、今後もM&Aを実施していくのですか。
中島氏 言い切ることは難しいが、結構、技術は社内にそろったかと思っている。内製化を進める競合に対し、われわれは、競合が持ち合わせていない技術をクリアにして顧客に伝えていく段階だと思っている。
EETJ 競合にない独自技術とは、どのようなものですか。
中島氏 最近で言えば、新構造のSAWフィルターを開発した。このフィルターは、他社にはできない特性を実現した。
最近は、アクティブデバイスでは、大きな差異化は難しくなっている。差異化しやすいのはフィルター特性。バンド数が多くなっているので、フィルターに求められる要件は多くて、この新構造のフィルターはかなり競争力があると思っている。
スマホ成熟期だが「アナログの員数は伸びる」
EETJ 通信モジュールの主力用途であるスマートフォンの成長が鈍化しています。
中島氏 スマートフォン端末自体の市場は、成熟化している。成長率も1桁パーセント台が続くだろう。しかし、スマートフォンの中身を見ると、全て上位互換になっていて、5Gになっても、LTE機能は必ず入る。もっといえば、3Gも2Gも入る。フィルターなどアナログの部分は、どんどんコンテンツは増えている。チップセットやディスプレイ、バッテリーの員数は変わらないが、アナログに限っては、まだまだ員数は増えていく。
もう1つ、ハイエンドスマートフォンは部品の小型化が進んで扱いが難しくなったために、モジュール化が進んでいるが、中国などのLTE端末はまだハイエンドほどにはモジュール化されていない。LTEに対応していないミドルエンド、ローエンドはなおさらだ。部品をかき集めて、基板に直接実装している。こうしたハイエンド以外のモデルでのモジュール化が進めば、通信モジュール事業としては成長要因の1つになる。
EETJ 通信モジュール事業としての今後の売り上げ成長見込みを教えてください。
中島氏 フィルターなど部品個々の員数自体は数十%成長でまだまだ伸びている。しかし、モジュールの売り上げ成長は、直感的だが、少し鈍るかと思う。個々の部品をパッケージング化したモジュールでは、なかなか、モジュールに搭載するコンテンツの数が増えても、価格として認めてもらいにくいと思うからだ。
スマートフォン依存度が高いことは「問題ではない」
EETJ スマートフォン以外の用途へのビジネスを強化する部品メーカーが多い中で、村田製作所は“脱スマートフォン”の必要性はないようですね。
中島氏 業績発表数値を見てもらえれば分かるが、当社のスマートフォン依存度は高い。とはいえ、スマートフォン依存度が高いことは問題だとは決して思わないが、スマートフォン以外の注力用途でのプレゼンスが上がっていないことが問題だと認識している。車載であったり、エネルギーであったり、医療であったり、注力市場で、まだまだ存在感が高まっていない。
好業績を支えているのは、スマートフォン向けであり、今後、3〜5年は、スマートフォンで業績を支えることはできるだろう。ただ、他の市場での売り上げは上がっているが、大きくはポジションはアップしていない。スマートフォンと同じ取り組みでは、ダメだ。スマートフォンの場合は、良い特性のものをより安く、小さく作るということが価値として認められてきた。しかし、車や医療やエネルギーは価値の基準が違う、ビジネスのスピードが違う。ビジネスの在り方を変えていかないと、各市場でのポジションは上がってこない。
<後編「ソニー電池事業買収、4つの勝算」に続く>
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