Intelの工場でARMベースのチップが作れる:「IDF 2016」
Intelは、開発者会議「Intel Developer Forum 2016(IDF 2016)」で、10nmプロセス技術開発においてARMと協業することを発表した。
ARMベースのチップを製造できるようになる
Intelは、10nmプロセス技術開発において、他のファウンドリーをしのぐ性能を実現したと発表した。LG Electronicsなどのメーカー各社に向けた、ARMベースのモバイルチップの製造に適用する予定だという。Intelは、今回の技術を実現するに当たり、ARMのIP(Intellectual Property)プラットフォーム「Artisan」を手掛ける事業部門との間で協業関係を構築している。同部門では、1種類の64ビットコアを対象としたレファレンス設計を、プロセス技術に移植する取り組みを進めている。
今回の発表は、米国カリフォルニア州サンフランシスコで2016年8月16〜18日に開催されているIntelの開発者向け会議「Intel Developer Forum 2016(IDF 2016)」において行われた。これによりIntelが、プロセス技術開発でも強さを維持しているという事実が一段と強調された。また、同社にとっては、まだ完全に独り立ちできていないファウンドリー事業部門を、本格的にモバイル市場に参入させる必要に迫られていることが浮き彫りになった。
一方で、中国のSpreadtrum Communicationsは、Intelの既存の14nmプロセスを用いてモバイルチップを製造する予定だという。また、Intelは2016年第4四半期に、14nmプロセス技術を用いたAlteraのFPGA「Stratix 10」のサンプル出荷を開始する予定だとしている。最新のパッケージング技術を適用することによって、既存の2.5D(2.5次元)技術よりも低コスト化を実現することが可能だという。
Intelの10nmプロセス技術は、現在もまだ開発段階にあるが、54nmのゲートピッチを実現する見込みだという。これについて、同社の製造グループでシニアフェローを務めるMark Bohr氏は、「今後数年の間にあらゆるメーカーが手掛ける技術の中でも、最短のゲートピッチとなるだろう」と主張する。
Bohr氏は、「Intelの10nm/7nmプロセスはいずれも、トランジスタ当たりの高密度化と低コスト化を実現し続けていくだろう。ステップ数やマスク層の数などが増加しているため、ウエハー当たりのコストは上昇し続けていくが、少なくともIntelにとっては、ムーアの法則は健在であり、トランジスタ当たりのコストは今後も低下し続けていくだろう」と述べている。
米国の市場調査会社であるVLSI ResearchでCEO(最高経営責任者)を務めるG. Dan Hutcheson氏は、「Intelのファウンドリー事業は、始動してから2年半の間、撤退したのかと思うほどにひっそりと静まり返っていた」と述べる。
Hutcheson氏は、「Intelは今回、新たな契約締結により、ARMベースのAndroidスマートフォンやIoT(モノのインターネット)などに向けたチップの製造体制を整えている。IoT製品の大半が、ARMベースとなるだろう」と述べる。
Intelの14nm/10nmプロセスでは、これまで以上に、ロジック領域の縮小とトランジスタコストの削減を実現することができると期待されている。しかしBohr氏は、「ウエハーコストが上昇し、複雑化も進んでいることなどから、今後もプロセス間の期間は2年〜2年半になるとみられる」と述べている。
またBohr氏は、「当社は、このような高コストのプロセス技術をもっと有効活用して、寿命を延長させるべく、派生技術に関する取り組みを強化している。20年前は、プロセス技術による製造が増強されると、その2年後にはまた減産が始まっていた」と述べる。
このため、Intelは既に、14nmの派生プロセスとなる「14+nm」プロセスを適用した次世代チップの製造に着手しており、12%の性能向上を実現できる見込みだという。Bohr氏は、「10nmプロセスでも派生プロセスとして、『10+nm』および『10++nm』を提供する予定だ」と述べているが、詳細についてはコメントを避けた。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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