鉄道人身事故に打つ手なし!? 数字が語るその理由:世界を「数字」で回してみよう(33) 人身事故(3/6 ページ)
鉄道への飛び込みはどうもお手軽らしい。それは前回、明らかになりました。もしかすると鉄道会社はそれを体感的に知っているのかもしれません。対策を取ろうとは、しているのです。ところが、これは遅々として進みません。なぜか――。その理由は、ちゃんと数字が伝えてくれているのです。
“その瞬間”は、頭が真っ白に……
さて、再び前回のコラムの話に戻りますが、前回、私は「鉄道を使った飛び込み自殺は、お手軽である」という仮説を立てました。その理由の1つに、「自殺の発意から実施までが、数秒程度で足る」ことを挙げています。
しかし、私は、「鉄道を使って自殺を試みている人のかなり多くの人が、『自殺を試みている』という意識すらもないのではないか」と疑っています。
その根拠の1つが「私自身」です。
これは、私が本シリーズの第1回で記載している通り、私には自殺の意思が全くなかったのにもかかわらず、ホームからレールに落下しようと体が勝手に動いていたという、恐怖体験によるものです。
そして、実際に自殺未遂、または自殺から生還できた人の声をまとめてみると、実際のところ、「その自殺を試みたその瞬間、何も考えていなかった」という人が、結構な数いたのです。
それは、“事を起こした後”に語っている様子からも見て取れます。例えば、「クスリを飲んでから病院に駆けこんだ」とか、「屋上からの落下中に冷静になって後悔した」とか、「手首を切ってから救急車を呼んだ」といった具合なのです。
共通のキーワードは「頭が真っ白になって」です。これは衝動自殺の典型パターンのようです。多くの人にとっても、程度の大小や深刻度の差はあれ、似たような思いをしたことあると思います。『恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい。死にたい。いなくなっちゃいたい』*)というやつです。
*)「終物語(上)」西尾維新(講談社BOX)
そしてこれもご存じだと思いますが、この強い自殺衝動の継続時間は極めて短いのです。多分10秒以上、連続して維持し続けることは難しいと思います。
もし、「鉄道を使った飛び込み自殺」の多くが衝動自殺に起因するものであるなら、ホームドアの設置は、著しい効果があるはずです。
ホームドアとは、ホームからの転落や列車との接触事故防止などを目的とし、電車が停止し、乗客の乗降時のみに、その一部が開閉する「壁」です。
この「壁」を乗り越えるのは、相当難しいはずです。なぜなら、私、横浜市営地下鉄のホームドアの前に立って、毎日、「壁」を乗り越えるシミュレーションを頭の中でやっているのですが、「身長170cmの私が、この150cmの壁を乗り越えるのは無理」と断言できるからです。
力溢れる若者か、日々体を鍛えているアスリートなら可能かもしれませんが、酔っぱらいに、このホームドアを乗り越えることは無理でしょう。
自殺思念に取りつかれた人が、必ずしも無気力で体力がない、とは断定できませんが、仮にホームドア超えようとしている奴がいれば、(その場に誰かがいれば)比較的簡単に引きずり下ろせます(で、その後、袋だたきにする)。
私の考える「ホームドアの有効性」のロジックは以下の通りです。
- 正しく絶望して、ロジカルかつ計画的に自殺を試みようとする人なら電車は使わない
- 電車を使う人は、衝動的自殺である可能性が高い
- ならば、衝動が消えて、正気になるまでの時間かせぎ(10秒程度)ができれば良い
- 衝動中に、ホームドアを乗り越えるのには難しく、それなりに頭と体力を使う
- 頭と体力を使用している途中で、正気に戻れる可能性が高い
という流れで、私は「ホームドアは、絶対的に効果がある」と確信しています。
「ホームドアでも無駄だ」と主張する人は、東洋経済オンラインに掲載されたこちらの記事「鉄道自殺防ぐ「ホームドア設置」は効果絶大だ」を読んでください。
私はこの記事によって、「鉄道の飛び込み自殺の多くが、秒単位の衝動自殺である」という私の仮説に自信を持つことができました。
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