消費電力0.01mWの水素センサー、ReRAMがヒントに:既存品の1万分の1以下
パナソニックは「CEATEC JAPAN 2016」(2016年10月4〜7日、千葉・幕張メッセ)で、現在開発中の水素検知センサーを展示した。水素検知センサーは、パナソニックが開発した新しい検出原理を採用したもので、既存品と感度は同等だが、消費電力が1万分の1以下となっている。
消費電力が1万分の1以下
パナソニックは「CEATEC JAPAN 2016」(2016年10月4〜7日、千葉・幕張メッセ)で、開発中の水素検知センサー「IoT-ReHセンサー」を展示した。同社が開発した新しい原理を用いて、水素を検出するものだ。既存の主な方式には、接触燃焼方式やトランジスタ方式がある。接触燃焼方式は、水素が存在すると検知素子表面で水素が燃焼し、温度が上昇して抵抗値が増加するので、それを利用するもの。トランジスタ方式では、Pt(白金)などを使ったゲートに水素が吸着すると、ソース/ドレイン間の電流が増加するので、それを利用する。この2つの方式はいずれもヒーターによる加熱が必要だ。そのため消費電力が大きいことが課題だった。
パナソニックが開発した新しい水素検知センサーは、還元反応を利用している。具体的には、電極で挟み込んだタンタル酸化物にフィラメントを形成する。そこに水素が入ってくると、還元反応が起きてフィラメント中のタンタル酸化物(Ta2O5)に欠陥ができ、抵抗が下がって電流が流れる。その電流値から水素の濃度を算出する仕組みだ。パナソニックの担当者によると、これは「当社が長く開発を手掛けてきたReRAM(抵抗変化型メモリ)の原理を応用したもの」だという。「このような原理を採用した水素検知センサーは他にないのではないか」(同社)。ReRAMの応用なので、半導体プロセスで製造できることも特長だ。
感度は0.1%と、既存の水素センサーと同等レベル。一方で消費電力は、ヒーターを使わず室温で水素を検知できることにより、接触燃焼方式やトランジスタ方式の1万分の1以下となる0.01mWを実現している。パナソニックによると「市販のコイン電池1個で約6年間、動作する」という。
今回パナソニックが展示した水素センサーのプロトタイプは、水素センサーとメインボックスの2つで構成される。メインボックスには、パナソニックのReRAM搭載マイコン、無線モジュール、電源スイッチ、各種コネクターが搭載されている。パナソニックは「将来的には、燃料電池車や水素ステーションなどに、無線通信機能を備えたIoT-ReHセンサーを設置して、“水素検知センサーネットワーク”を形成できるようになる」と説明した。
IoT-ReHセンサーの本格的な製品化は2020年ごろを目指す。「日経BPクリーンテック研究所は、世界の水素インフラの市場規模は、2030年には40兆円弱になると予測している。水素センサーのニーズは高いと見込んでいる」(パナソニック)
なお、IoT-ReHセンサーは、「CEATEC AWARD 2016」のグリーンイノベーション部門で準グランプリを獲得している。
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