データは語る、鉄道飛び込みの不気味な実態:世界を「数字」で回してみよう(35) 人身事故(10/11 ページ)
「鉄道を使った飛び込み自殺」が減らないのなら、いかにしてそれを避けるか、というのが重要になります。そこで「ビッグデータ手動解析」と「人間知能“EBATA”」を駆使して、人身事故から逃れる方法を検証してみました。ところがその先には、がく然とする結果が待っていたのです。
仮説すら立てられない、不気味な実態
それでは、今回のコラムの内容をまとめてみたいと思います。
【1】1年で最もティーンエージャーの自殺が多い日は「9月1日」です。これは、日本の「夏休み」という制度に起因していることを、他のデータで裏付けを取りました。今回のコラムでは、これを、『希望で始まり、絶望で終わる夏休み』と名付けました。
【2】日本の電車が、世界に冠たる日本の列車の定刻運行を実現しているのは、鉄道会社の律義な努力に加えて、世界一厳しい過密スケジュールをさばくことのできる運行管理システムと、「他の会社(や地域)が定刻運行しているなら、私の会社(や地域)も定刻運行する」というブラック企業的な日本人の国民性に起因している、という江端仮説を紹介しました。
【3】「うつ病」の中でも、特に自殺願望を伴う重篤なものは、『とにかく、理由もなく、死にたくて死にたくて、しょうがなくなる病気』である、ということをいくつかの文献から読み取り、「重篤なうつ病による『鉄道を使った飛び込み自殺』」を止めることは、事実上不可能であると結論づけました。
【4】内閣府出版の「自殺対策白書」と国土交通省鉄道事故データ(5万件)を使って、どのようにして『飛び込み自殺』による人身事故から避難するかについて検討しました。
その結果、『飛び込み自殺』が重篤なうつ病によって起こされている可能性を述べた上で、「努めて9時から14時までの電車を使うこと」以外に、有効な手段がないことを明らかにしました。
私は、仕事柄、たくさんの数字が印刷された用紙を、机や床の上にぶちまけて、ある一定の筋の通ったルールとかロジックとかを見つけ出す ―― 仮説を立てる ―― 作業をやります。
もちろん、その仮説の大部分は的外れなものです。それは検証作業(コンピュータを使ったはシミュレーションが多いですが)を通じて、「ダメだった」ことが分かります。
しかし「ダメだった」こと自体は、ダメではないのです。公に棄却された仮説は、公に採用された仮説と同様に価値があるからです。これは、「失敗データには価値がある」の話と同じです。
ところが、今回は、その「仮説すら立てられなかった」ことに、私は、結構ショックを受けています。「鉄道を使った飛び込み自殺」は、私が頭の中で描いていた「自殺」とは、全く異質の性質を示しているようです。
―― 一体、どんなロジックで、「鉄道を使った飛び込み自殺」は発動しているのだろうか。
それでは、アンケートに応じて頂いている皆さまの、深遠な道理を知りうるすぐれた知恵 ―― 「叡知」を、心より期待しております。私を助けていただけますよう、よろしくお願い致します。
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