450人が去った会社――改革の本番はむしろこれから:“異端児エンジニア”が仕掛けた社内改革、執念の180日(7)(2/4 ページ)
湘南エレクトロニクスでは、ついに希望退職の日を迎えた。会社を去ったのは最終的に450人。だが、「社内改革」という意味ではむしろこれからの方が本番だった。会社再建に向けてどう青写真を描くべきか……。悩む須藤に、追い打ちをかけるように一報が入る――。
本社でのウワサ
須藤たちは、「再建の青写真をいかに緻密に戦略的に立てるか?」ということに、まだ解を見いだせないでいた。本社勤務の同期である営業部の末田、知的財産部の荒木を誘い、藤沢工場近くの居酒屋で酒を酌み交わしていた。
須藤:「なんか、最後はあっけなかったよな」
末田:「人がいない・機械も動いていないガランとしている工場って想像していたより寂しいものがあるよ」
荒木:「確かに。だけど、本社は本社で管理部のベテランがかなり辞めたから、先が心配だよ」
末田:「希望退職だと真っ先に間接部門、本社機能がバッサリやられるって聞いていたしね」
須藤:「何はともあれ、俺たちは会社の残る道を選んだんだから、これからどう立て直すかを考えないと。それに、日比野社長だって期待してくれていると思うんだ」
末田:「あれ? 須藤、お前聞いてないのか? 日比野社長は今回の責任を取って社長を辞任するというウワサが本社では流れてるぞ」
荒木:「あぁ、俺もそんな話を耳にした。まだ正式ではないだろうけど、そんなウワサがあるのはホントだよ」
須藤:「なんだよ、それ! 今回の事は社長のせいじゃないじゃないか! なんで、うちの森田課長や営業の山口課長みたいなどうしようもない管理職が残って、社長が辞めなきゃならないんだ」
末田:「そりゃ、あれだけ社員が辞めたんだ。いわゆる経営責任ってやつだろうけど、株主をはじめ対外的に収拾がつかないんだろう」
荒木:「マジ、お世話になった先輩たちをはじめ、いい人ばっか、いなくなっちゃうって本当なんだなぁ」
末田:「須藤が出したメールで集まったメンバー(第5回参照)は、みんな残ってるじゃん。企画の佐伯課長もいるし、それとなんだっけ? 東京のコンサルティング会社の人も応援してくれているんだろう?」
須藤:「それはそうだけど……」
頭では理解できるものの、須藤は面白くなかった。
確かに、経営者が何らかの責任を取らなくてはいけないことは分かる。だが、現場があれだけ大好きで、誰よりも会社のことを考えていた社長だけの責任なのか? 他の役員の責任は問われないのか。中間管理職は一体何をしていた? そして、俺たち一般社員には何の責任もないのだろうか――。
須藤の周りの開発課や技術部のメンバーは、言われたことに反発することない、“従順な優等生”だ。しかし、見方を変えれば、いい子にして、言われたことだけをやっていれば怒られることもないし、責められることもないのだ。心からの本音を言わなくなる。
製品開発1つとっても、そうだ。開発当初は斬新で奇抜なアイデアが出てくる。しかし、いつも営業部のゴリ押しの「そんなもん売れやしない」のひとことで、とがった製品がどんどん丸くなり、どこにでもあるようなつまらない製品になってしまう。この様相を長いこと、須藤は見てきた。今回、一連の騒動の発端である最新のデジタルビデオカメラ「DVH-4KR」は、須藤が営業の要求に一歩たりとも妥協を許さなかったからこそできた、初めての製品だ。そのフィールドエバをキッカケにこんな不祥事にまで発展してしまったのだ。俺たち、開発もそうだし、いい子だけど傍観者であった技術部内の社員にも責任の一端はあるのではないか。会社というみこしは経営者も含めて、全社員で担ぐものではないのか?
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