M&Aが続く半導体業界、市場競争の減少が懸念:革新の機会も脅かされている?
ここ数年間、半導体業界はM&Aの嵐に見舞われている。それに伴って、市場競争の減少が懸念される。
いまだに活発なM&A
過去2年間で、歴史的記録をはるかに上回る数のM&Aが行われてきたが、今や買収取引の質は変わりつつある。
例えば、MacomやBroadcomはそれぞれApplied MicroとBrocadeに対して買収を申し出ているが、その内容はまるで未公開株式の取引のようだ。2社は買収した企業を分割し、収益性が見込める事業を維持する一方、残りは安く売り払うことをもくろんでいるからである。
これは全く新しいことではない。数年前には旧Avago Technologiesが同様の手法をとっている。LSI事業部を3〜4部門に分け、そのほとんどを売却したのだ。とはいえ、こうした手法が、大規模な買収提案に対して、しかも1週間のうちに2回も行われたのは驚くべきことである。
2017年にはこのような形の買収はさらに増えると思われる。
Siemens(シーメンス)によるMentor Graphics(メンター・グラフィックス)の買収は、ソフトバンクによるARMの買収に似ている。いずれのケースも、幅広く事業を展開する巨大企業が有利な長期投資になることを見込んで、経営状態は良いが中核市場に入り込めていない中堅企業を買収するという図式だ。
ソフトバンクは、買収によってARMの成長を促進することを目指すとしているが、それがどの程度実現されるかは現段階では何とも言えない。一方のSiemensは、さらにリスクの高い投資に踏み込んでしまった可能性がある。
2015年にはNXP Semiconductors(NXPセミコンダクターズ)がFreescale Semiconductor(フリースケール・セミコンダクター)を買収するという大きな動きがあったが、今度はそのNXPがQualcomm(クアルコム)に買収される。この買収により、IntelとSamsung Electronicsに次ぐ第3位のロジックICサプライヤーが誕生する。
市場競争の減少という懸念も
これらの買収は全て理にかなったものだ。だが、買収によって市場競争が減ることは疑いようがないため、懸念を引き起こしているのも事実である。
Qualcommはスマートフォン用IC市場を席巻しているが、同市場は今や成熟期に入りつつある。NXPの組み込みチップの幅広い製品ポートフォリオが手に入れば、Qualcommは戦略を大きく変更することなく、市場の変化に対応できるようになる。巨大なメーカーであるQualcommがさらに成長し続ければ、技術や市場の変化に対する“免疫”は強化され、安定性を求める傾向も強まる。
MacomによるApplied Microの買収、そして旧AvagoによるBroadcomの買収によって、リスクが高くコストもかさむために行き場を失っていたARMサーバ向けSoC(System on Chip)の開発計画は頓挫したり、新たに立ち上がったりした。SoCのユーザーは安定性を求め、その結果Intelのサーバ向けプロセッサ市場における優位性は高まった。
こうした買収で大きな恩恵を得たのは企業である。筆者は、M&Aという生き残り戦略は成熟した業界には適しているが、イノベーションへの情熱を削いでしまう可能性もあるのではないかと懸念している。
BroadcomのCEOであるHock Tan氏は、Brocadeの買収を発表したカンファレンスコールで、買収のアイデアは持ち込まれるものであり、「われわれは獲物を狙ってうろついているわけではない」と述べた。Tan氏は買収による成長戦略で知られる人物である。M&Aによって大きな利益を得るのは銀行家や弁護士、取締役などではないだろうか。彼らは、常にM&Aのような機会を探しているに違いない。IPO(株式初公開)やベンチャー投資によって利益を得ることができるからである。
半導体業界が著しく成長していた時代は、とうに過ぎ去った。だが、機械学習や次世代不揮発メモリなど、技術革新を期待できる分野はまだある。だが、こうした技術革新が、激しいM&Aが繰り返されている現在の半導体業界において、脅かされているのではないだろうか。
【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】
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