加速する5G開発、実用化に向け実証進む米国:ノキアの取り組みで探る5G最前線(3)(1/2 ページ)
第3回となる今回は、米国に焦点を当てる。日本、韓国と並んで5G(第5世代移動通信)開発に積極的なのが米国だ。その米国で、2016年はどのような取り組みが進んだのか。
「ノキアの取り組みで探る5G最前線」バックナンバー: | |
---|---|
第1回 | 【韓国編】世界初の試験運用を目指す韓国、冬季五輪が勝機に |
第2回 | 【日本編】最初の照準は東京五輪、5G開発を加速する日本勢 |
2016年に大きな動きがみられた5G
5G(第5世代移動通信)機能の利用が見込まれるサービス分野は、拡張されたモバイルブロードバンド(eMBB)、膨大な数のデバイスがつながる機械型通信(mMTC)、非常に信頼性が高く遅延の少ない通信(URLLC)という3つの大きなカテゴリーに分類される。
米国の市場調査会社であるガートナーによるハイプサイクルのグラフ(下図参照)には、こういった5Gの高い性能によって将来可能になると思われるテクノロジー、もしくはユースケースが示されている。例えば、eMBB関連では仮想現実や拡張現実、mMTC関連としてはコネクテッドホームやIoTプラットフォーム、URLLC関連としては自律走行車やスマートロボットが挙げられている。
ガートナーによれば、新たなテクノロジーの生産性が安定するまでには、5〜10年かかるという。この論理に従えば、上記のようなユースケースで一定規模の5G導入が開始されるのは2021年ごろになるだろう。この想定は、IMT-2020での標準承認を見込んだITU(国際電気通信連合)によるタイムラインとも一致する。しかし、それまでの間に何が起こるかは、不透明なままだ。ここでは、そうした疑問について、米国の場合を中心に考えてみたい。
5Gへの取り組みでは、2016年に大きな進展があった。これは標準承認の想定時期よりもかなり早いため、通常とは異なるこうした前倒しに向けた動きがどのように始まったのかを押さえておくことが大切になる。主な動きを、数年前からさかのぼって見ていこう。
新しい動きが相次ぐ
始まりは、韓国で開催される2018年冬季オリンピックのスポンサーでもあるKTが、競技の場で5Gテクノロジーを実証したいという強い意欲を示したことだった。これに伴い、レイヤー1(L1)およびレイヤー2(L2)プロトコルを中心とした事前標準仕様を策定するためのフォーラム(KT SIG)が立ち上げられた。これは、基地局とシームレスに相互運用できるエンドユーザー・デバイスを開発するためのものである。
その後、2015年9月に開催された「CTIA Super Mobility」(米国ラスベガス)で、Verizonとノキアが2016年に固定無線向けの5G実験を行うことを独自に発表した。さらにVerizonは、事前標準仕様策定のためのフォーラム(5GTF)を立ち上げている。
続く2016年2月には、「Mobile World Congress」(スペイン・バルセロナ)において、KT、SK Telecom、NTTドコモ、Verizonで構成される「5G Trial Specification Alliance(5G TSA)」の立ち上げが発表された。
その後、KTによるL1/L2への取り組みは、Verizonの5GTF仕様に組み込まれる形で、2016年6月に公開されている。その他にも、さまざまな情報公開が期待されているが、これまでのところ、KT SIGや5G TSAからは何も公開されていない。
共通のエコシステムを構築して実験を早期に行うのは有意義なことである。だが、こうした活動に関与していない通信事業者やベンダーは、ソリューションの標準化をさらに推し進めて貢献していきたいという思いを抱えていた。
このため、2016年6月に韓国で行われた3GPP本会議では、L1/L2仕様の策定作業を(2018年6月から)2017年12月に早めようという提案が提出、可決され、現在、それに向けた取り組みが進められている。
さらに米国では、5Gの早期実現に向けた取り組みに伴い、2016年7月に連邦通信委員会(FCC)において、計11GHzもの周波数帯域を開放することが決定された。これには、27.5〜28.35GHzおよび37〜40GHzの免許帯域3.85GHzと、64〜71GHzの免許不要帯域7GHzが含まれている。2015年の世界無線通信会議(WRC15)で定められたIMT-2020向けの帯域候補とは異なるものの、それだけで米国として相当な投資をしているということが分かる。
同月、オバマ政権は次世代5G無線ネットワークへの移行を促進させるために、4億ドル超を投じることを発表した。4都市で行われる大規模な5G試験への資金提供や、今後7年間にわたって行われる5G関連研究プロジェクトの支援に充てられる予定だ(参考)。
こうした数多くの取り組みを見ていくと、5Gに関して、特に米国に関しては、ガートナーのハイプサイクルは前倒しで進んでいく可能性がある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.