車載好調の理由からM&Aまで、ルネサスに聞く:震災後にシェアを失うも回復基調(2/2 ページ)
NXP SemiconductorsとFreescale Semiconductorが統合作業を進める中、車載マイコンおよびSoCの市場シェアを伸ばしていたルネサス エレクトロニクス。同社の第一ソリューション事業本部 車載情報ソリューション事業部で事業部長を務める鈴木正宏氏に、ルネサスの車載向け製品や、Samsung ElectronicsによるHarman International買収について話を聞いた。
Linuxへの完全対応が重要な理由は?
EE Times Linuxへの完全対応がそれほどまでに重要な理由は。
鈴木氏 Linuxの独自バージョンの開発に取り掛かると、さまざまな複雑性に直面する。万が一、自社システムにセキュリティホールが見つかった場合は、多様なセキュリティパッチを独自開発しなければならない。しかし、Linuxに完全準拠していれば、問題を未然に防ぐことが可能だ。
EE Times IVI戦略については理解できたが、ルネサスとしては今後、高性能自動運転車市場をどのように追求していくのでしょうか。
鈴木氏 当社は最近、ハイエンドSoC(System on Chip)「R-Car H3」を搭載した「R-Carスタータキット Premier」2セットと、シャシー制御用マイコン「RH850」を搭載した「HAD(高度自動運転:Highly Automated Driving)ソリューションキット」を発表したところだ。
EE Times RH850はどのような製品なのでしょうか。
鈴木氏 RH850は、当社の最新の車載MCUシリーズだ。新しい高性能車載アプリケーション向けに不可欠な、機能安全(ISO26262 ASIL-Dに準拠)や組み込みセキュリティ機能を提供する。RH850は現在、TSMCの40nmプロセスを適用して製造しているが、同社の最先端の28nmプロセスを用いたフラッシュ内蔵マイコンへの移行も進めている。今後は、次世代EVや自動運転車などの開発をけん引する役割を担っていくだろう。
ECUとR-Car H3を組み合わせることで、開発メーカーは、独自に開発した高性能自動運転ソリューションの試験に着手することができる。
EE Times これまでにインタビューを行ったどの半導体メーカーも、自動運転車向けのコンピュータブレインを自社開発していると語っています。中でもIntelは、BMWとMobileyeとの協業により、自動運転車向けSoCの開発を進めているところだといいます。センサーフュージョンやルーティング、プランニングを実行できることから、3社はこれを「ブレイン」と呼んでいます。ルネサスの場合は、どのチップ製品がブレインになるのでしょうか。
鈴木氏 R-Car SoCとRH850を組み合わせた製品だ。R-Carには約100個のIP(Intellectual Property)が搭載されている。われわれは、これらのIPは、メインのCPUのタスクをオフロードするために不可欠なものだと考えている。これらのIPは、ビデオコーデックから3Dグラフィック、オーディオDSP、画像認識などを行っている。
Samsungの車載M&A戦略
EE Times Samsung Electronicsが2016年11月にHarman Internationalを80億米ドルで買収すると発表しました。これについてどうお考えですか。
鈴木氏 車載市場参入に対するSamsungの本気度が表れていると感じた。われわれは、Samsungによる車載関連メーカーの買収がこれで最後だとは考えていない。まだ続くだろう。
EE Times Harmanのどのような点が、Samsungにとって魅力的だったのでしょう。
鈴木氏 Harmanは、Symphony TelecaやRed Bendといったソフトウェアのメーカーを買収することで、車載市場での存在感を増していった。Harmanはコネクテッドカーやクラウドサービスを熟知している。これはSamsungにとって極めて大きな資産となるだろう。Harmanの存在によって、Samsungは自動車メーカーに直接アプローチできるようになる。われわれは、Samsungが車載分野で今後展開していくであろうM&A戦略の第1章にすぎないと考えている。
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
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