5Gの機器評価を容易で、安価にするOTAパワー測定:ビームフォーミングの指向性も
議論が活発となっている5G(第5世代移動通信)。商用化に向けて必ず通らなければいけないのが、量産に向けた性能評価だ。5Gではミリ波帯を用いることが検討されており、従来のような評価手法では対応が難しい。そこでローデ・シュワルツ・ジャパンは、5G対応の機器に対して安価で効率的な評価を実現する「R&S NRPM OTA(Over The Air)パワー測定ソリューション」を発表した。
ケーブルロスを気にせずに評価可能
商用化に向け活発に議論が進んでいる5G(第5世代移動通信)。Ericsson(エリクソン)が2016年11月に発行した「エリクソン・モビリティレポート」によると、2017年に米国で5Gの試験導入が始まり、2018年の韓国ピョンチャンで開催される冬季五輪で商用化前のデモ、2020年の東京五輪で商用デモが行われる予定だ。3GPPが進める標準化も予定通り進み、5Gの加入契約数は2022年に5億5000万件に達する見込みという*)。
*)関連記事:5Gの加入契約数、2022年には5億5000万件に
チップメーカーの動きも活発となっており、Qualcommが2016年10月に5Gに対応したモデム「Snapdragon X50」、Intelも「CES 2017」(2017年1月5〜8日、米国ラスベガス)で5G対応モデムの開発を進めていることを明らかにしている。
5Gの商用化に向けて、必ず通らなければならないのが量産に向けた性能評価だ。5Gはミリ波帯を用いることが検討されているが、サイズの制限やシステムの複雑性などにより、対応デバイスにアンテナコネクターが付いていない可能性が高い。ビームフォーミングを用いることも検討されており、その指向性を評価する方法も求められていた。そこでローデ・シュワルツ・ジャパンは、5G対応の機器に対して安価で効率的な評価を実現する「R&S NRPM OTA(Over The Air)パワー測定ソリューション」を発表した。
同ソリューションは主に、ビバルディアンテナとパワーを検出するダイオードを統合したアンテナモジュール「R&S NRPM A66」(測定確度は0.2dB未満)と、アンテナモジュールを3本まで接続できるOTAパワーセンサー「R&S NRPM3」で構成されている。デバイスのパワー測定とビームフォーミングの評価が可能である。対応する周波数は27.5G〜75GHz。ミリ波帯の評価は受信した信号がケーブルを介して減衰してしまい、高精度な測定が難しい。同ソリューションでは、アンテナ端でパワーを検出してアナログ信号からデジタル信号に変換するため、ケーブルロスを気にせずに評価できるのが特長である。
ローデ・シュワルツ・ジャパンの中村浩士氏は「ビバルディアンテナは新しく開発したが、衛星や防衛分野で培ったノウハウを応用している。再現性の高い測定を可能にし、複数のアンテナを内部に搭載できるシールドボックスなども提供しており、トータルソリューションでの提供を可能にした。110GHzなどの高周波に対応したアナライザーは他社も展開しているが、OTAで評価できるのは当社のソリューションのみ」と語る。
また有線接続での評価の場合、ビームフォーミングの指向性を評価する際に、任意の方向にビームが正確に出力されているか、何度も電波暗室に足を運んで測定しなければならない。同ソリューションでは、複数個のOTAパワーセンサーを同時に使用できるため、多ポイントでの同時測定により、ビームフォーミングの評価も容易になるとした。
「IEEE 802.11ad」の測定にも対応
採用するアンテナモジュールの数によって価格は異なるが、アンテナ3本構成のOTAパワーセンサーで270万円。ミリ波対応シールドボックス「TS7124」は160万円となる。中村氏によると、ミリ波対応のスペクトラムアナライザーは本体で1000万円ほど掛かるという。オプションを加えることも考えると、コスト面での優位性があるといえる。
付属のソフトウェア「R&S Power Viewer Plus」を活用すれば、センサーをPCに接続して、最大12本のアンテナのパワー測定と測定結果のグラフ表示が可能だ。なお、対応する周波数範囲が27.5G〜75GHzとなっているため、「IEEE 802.11ad」や「IEEE 802.11ay」といった高速無線通信規格の測定にも対応するとしている。
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