無線BMS、EVの走行距離をガソリン車並みに延伸:国際カーエレクトロニクス技術展
リニアテクノロジーは、「第9回国際カーエレクトロニクス技術展」で、ワイヤレスBMS(バッテリー管理システム)を搭載したBMWの電気自動車「i3」コンセプトカーを展示した。満充電状態で500kmより長い距離を走行することも可能になるという。
高電圧バッテリーのモニターデータを無線で送信
リニアテクノロジーは、「第9回国際カーエレクトロニクス技術展」(2017年1月18〜20日、東京ビッグサイト)で、ワイヤレスBMS(バッテリー管理システム)を搭載したBMWの電気自動車(EV)「i3」コンセプトカーの展示を行った。BMSのワイヤレス化でバッテリーモジュール部のスペース効率が向上し、その分バッテリーパック数を増やすことによって、満充電状態でガソリン車とほぼ同等の距離を走行することが可能になるという。
ワイヤレスBMS搭載のi3コンセプトカーは、設計パートナーであるLION SmartとBMWが共同開発した。このコンセプトカーには、BMSとしてリニアテクノロジー製のバッテリースタックモニターIC「LCT6811」と、同社が「ダスト・ネットワークス(Dust Networks)」ブランドとして展開している無線センサーネットワーク技術「SmartMesh」用のLSI「LTC5800」が組み込まれている。これによって、LCT6811とバッテリーコントローラの間を、これまでのワイヤーハーネスによる有線接続から、無線接続に切り替えることができる。
LCT6811は1個で、直列接続された最大12個のバッテリーセルの電圧を、0.04%より高い精度で測定することができる。測定精度が高いため、バッテリーセル数を余分に搭載しなくてもバッテリーモジュールの性能や寿命を高いレベルに引き上げることができるという。一方、SmartMeshは、産業機器/システム分野におけるIoT(モノのインターネット)用途で、「切れない無線」として導入された実績がある。
リニアテクノロジーで東日本地区の事業本部長を務める畠山竜声氏は、「従来のBMSでも、安全、スマート、エコ、低コストを提供してきた。ワイヤレスBMSは、それをさらに向上させた。“より安全”で、“よりスマート”に、“よりエコ”な、“より低コスト”を実現することができる技術である。これに加えて、1回の満充電でガソリン車並みの走行距離を達成することも可能となる技術」と話す。
その理由についていくつか紹介した。安全性については、周波数ホッピングやメッシュ構成による空間冗長性、時分割通信などの技術により、過酷な通信環境においても「99.999%より高い接続信頼性を確保できる」(畠山氏)という。これまでのような、ワイヤーハーネス/コネクターなどの破断/破壊などによるシステム障害を回避することが可能である。
システム拡張も容易となった。BMSのワイヤレス化によってバッテリーモジュール/パックの配置は自由度が高まる。さらに、SmartMeshでネットワークされている電流モニターや温度モニターで得られたデータとセル電圧を同期させて、バッテリーの状態をより正確に監視することができる。
環境にも優しい。ワイヤーハーネスやコネクター、トランスなど電子部品の使用量を削減できるからだ。同社の試算によればワイヤレスBMSを採用することで、クルマ1台当たりワイヤーハーネスは約10m、コネクターなどの部品重量を約0.5kg、それぞれ節減できるという。仮に5万台の車両を量産したとすれば、延べ500km長のワイヤーハーネスと重さ2.5トンの電子部品を削減することが可能となる。このことは、部品コストの低減にもつながる。
ワイヤレスBMSを導入するメリットとして、畠山氏が最後に強調したのが走行距離である。「標準的なBMW i3のバッテリー容量は33kWhで、満充電時の走行距離は200kmである。ワイヤレスBMS搭載のコンセプトカーは同じバッテリースペースで55kWhまで容量をアップしている。これによって400kmの走行が可能となる。実際には、バッテリー容量を65kWhまで拡張できるスペースがまだ残されている。ここにフル実装すれば、500kmより長い距離を走行できるようになり、現行のガソリン車と遜色がなくなる」(畠山氏)と語った。
リニアテクノロジーは、LTC6811及びLTC5800を含めて、ワイヤレスBMSを検証/評価するためのリファレンスデザインキットを、2017年上半期には供給する予定である。
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