東工大ら、パワーデバイス内部の電界を直接計測:電界センサーを新たに開発
東京工業大学の岩崎孝之助教らによる研究グループは、新たな電界センサーを開発し、パワーデバイス内部の電界を直接計測することに成功した。
ワイドバンドギャップ半導体によるパワーデバイス開発を加速
東京工業大学の岩崎孝之助教と波多野睦子教授、産業技術総合研究所(産総研)先進パワーエレクトロニクス研究センターの牧野俊晴研究チーム長らによる研究グループは2017年1月、新たな電界センサーを開発し、パワーデバイス内部の電界を直接計測することに成功したと発表した。
次世代パワーデバイスとして、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)、ダイヤモンドといったワイドバンドギャップ半導体を用いた製品が注目されている。半導体デバイスにおいて、内部の電界は性能を決める要素の1つとなる。これまで材料表面の電気特性を計測することはできたが、電圧を印加した時の内部電界を、定量的かつ高い分解能で計測することはできなかったという。
研究グループは今回、ダイヤモンド半導体中に原子レベルの構造を持つ窒素−空孔(NV)センターを作り込んだ。ダイヤモンド格子中に窒素原子と空孔がそれぞれ1個ある構造だ。これを利用してデバイス内部の電界を直接計測する手法を開発した。「デバイス内部にかかる高い電界を定量的に直接計測したのは世界で初めて」と主張する。
具体的には、ダイヤモンドパワーデバイスに窒素イオンを注入する。これにより、NVセンターごとに分離できる量のセンサーを、表面から深さ約350nmに形成した。空間分解能は光の回折限界となる約300nmであり、ナノメートル単位で電界や磁場、温度などの計測が可能となる。しかも、NVセンターは熱的に安定しており、室温や大気中であっても高感度センサーとして用いることができるという。
電界の計測には、光検出磁気共鳴法(ODMR:Optically Detected Magnetic Resonance)を用いた。緑色のレーザーで励起したときにNVセンターが出す赤色蛍光を観測することで、NVセンターが感じる電界を検出する方法である。電界との相互作用でエネルギー位置が変化し、ODMRでの共鳴点がシフトしていく。このシフト量を観測し電界を定量的に求める仕組みだ。
実験結果から、電圧の上昇に伴って電界が増加し、150Vでは約350kV/cmになることが分かった。これらの計測で得られた電界強度は、デバイスシミュレーターの結果と一致しているという。なお、電界計測はPINダイオードの逆方向バイアス印加時に行った。また、NVセンターを導入してもデバイスは低いリーク電流を保っており、ダイオードとして動作していることも確認した。
今回開発した計測手法は、突発的な電界集中発生や大きなリーク電流下、絶縁破壊電圧印加時での電界測定などにも適用することができるという。また、複数のNVセンターを用いて、電界強度を画像表示することも可能となる。超解像顕微鏡と組み合わせれば、空間分解能を10nm程度まで向上させることができるとみている。
今回はダイヤモンド中にNVセンターを作り込んで内部電界を計測した。それ以外でも、原子レベルの発光構造(SiC中のSi空孔など)を持つSiCやGaN、AlN(窒化アルミニウム)、h-BN(六方晶窒化ホウ素)といったワイドバンドギャップ材料であれば、発光構造の形成方法とスピン制御技術を開発することで、今回の計測手法を適用することが可能になるという。
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