東工大、微細化でIGBTのオン抵抗を半減:3分の1スケーリングで実証
東京工業大学は、微細加工技術によりシリコンパワートランジスタの性能を向上させることに成功したと発表した。従来に比べオン抵抗を約50%低減できることを実証した。
IGBTの耐圧は維持、ゲート電圧は5Vに低下
東京工業大学科学技術創成研究院未来産業技術研究所の筒井一生教授らは2016年12月、微細加工技術により、シリコンパワートランジスタの性能を向上させることに成功したと発表した。従来に比べオン抵抗を約50%低減できることを実証した。
パワートランジスタ市場では、価格などの面からシリコンIGBT(Si Insulated Gate Bipolar Transistor)が占める比率は依然として高い。ところが、性能面ではオン抵抗の低減による低損失化などが課題となっている。今回は、微細化(スケーリング)による高性能化に注目し、3分の1スケーリングのSi-IGBTを作製して、その効果を実証した。
研究チームは、現行のSi-IGBTと同等寸法のデバイスと、新規スケーリングの概念を用いて微細化した新構造のデバイスを作製し、その特性を比較した。作製したSi-IGBTの構造や電流をオン/オフする動作については、従来のデバイスと変わらないという。
デバイス作製に当たり、寸法の微細化比率をスケーリングファクター1/kで表した。従来デバイスはk=1で、新規デバイスはk=3となる。断面構造において、トレンチゲート周りの寸法は1/kに比例縮小したが、隣接するトレンチゲートまでの距離(W)は一定とした。IGBTの2次元のスケーリングは、CMOS構造のデバイスと異なり、縦横スケーリングが逆の影響、効果になることもあるという。その効果は複雑で、これまでのシミュレーション結果によれば、単位面積当たりのオン電流の密度は増大することが予測されている。今回は、試作したデバイスでこの予測を実証した。
研究グループは、スケーリングで予測されるラッチアップ耐性の劣化に対する対策も行った。試作時にスケーリングパラメーターの一部を見直している。さらに、デバイスの奥行き方向に交互に作られる表面のp形領域とn形領域のピッチ(Lp+およびLn+)も1/kに縮小した。
エミッター−コレクター間飽和電圧と呼ぶ、特定のオン電流密度(飽和電流密度)における電圧を測定したところ、k=3スケーリングで1.26Vとなった。従来(k=1)の1.7Vに比べると約70%である。同じエミッター−コレクター間電圧における電流はスケーリングにより約2倍となった。このことは、オン抵抗が半減したことを示す。これらの結果から、スケーリングによりIGBTの低損失と高効率化を実現できることが分かった。
また、IGBTのゲート電圧も従来の15Vに対し、スケーリングによって5Vまで低減させることができた。これによって、IGBTを駆動する回路の消費電力を低減することができ、システムレベルでの高性能化と低コスト化を可能とした。
今回のスケーリングは、IGBTのゲート周りに対して行ったもので、トランジスタ耐圧に関わるnベース層の厚みは変更していない。このため、新構造のIGBTでも耐圧1000〜数千Vは維持されるという。
今回の成果は、2016年12月6日に米サンフランシスコで開かれた国際会議「IEDM2016(International Electron Devices Meeting)」で、東工大、東大、九州工業大学、明治大学、産業技術総合研究所、東芝、三菱電機の共同研究として発表された。
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