有機CMOS回路で、高速/高集積化に成功:IoT機器の進化を支える
トッパン・フォームズや富士フイルム、パイクリスタルなどの研究グループは、印刷技術で製造できる有機半導体CMOS回路について、より高速な動作が可能で、集積度を高めることができる技術を開発した。
固有IDコードや温度センサーからの取得情報量を拡張へ
トッパン・フォームズや富士フイルム、パイクリスタルなどの研究グループは2017年2月、印刷技術で製造できる有機半導体CMOS回路について、より高速な動作が可能で、積層化によって集積度を高める技術を開発したと発表した。新たに開発した温度センサー読み出し用の多ビット有機A-Dコンバーター技術と組み合わせることで、IoT(モノのインターネット)を実現するための温度管理用電子タグを実現することができる。
今回の研究成果は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の戦略的省エネルギー技術革新プログラム「革新的高性能有機トランジスターを用いたプラスティック電子タグの開発」によるものである。このプログラムには、トッパン・フォームズや富士フイルム、パイクリスタルの他、大阪府立産業技術総合研究所、JNC、デンソー、田中貴金属工業、日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース、東京大学が参加している。
このプロジェクトは、従来の多結晶有機半導体デバイスに比べて、「コストは10分の1以下、性能は10倍以上で、価格性能比は100倍以上」となる有機半導体を、簡便かつ低コストで製造するための技術を開発している。その成果により、商用周波数を用いて通信が行え、応答速度も速いRFIDタグの実現を目指している。
今回はパイクリスタルと富士フイルム、東京大学の竹谷教授らによる開発グループが、移動度の高い有機半導体CMOS回路を開発した。溶液を塗布して単結晶化する「塗布単結晶化」技術を用い、全てフィルム基板上に回路を作製した。試作した有機CMOSフリップフロップ回路は、論理演算速度が0.5MHzを超えた。研究グループによれば、「この速度はこれまでより1桁以上も速いスピードになる」という。
集積度を高めるプロセス技術も開発した。従来のようなプロセスの微細化による手法ではなく、p型層とn型層を積層することによって実現した。この技術を用いて数千個のトランジスターで構成される高機能な回路も集積することができるという。これによって、温度管理用電子タグと端末機器が直接通信することも可能となる。
一方、大阪府立産業技術総合研究所の研究グループは、物流温度モニター向けに、冷蔵/冷凍といった温度範囲でも動作が安定しているフレキシブル温度センサー構造を開発した。さらに、パイクリスタルと共同で、世界最高レベルの応答速度を実現した有機CMOSフリップフロップ回路を用い、多ビットA-Dコンバーター回路を印刷プロセスで開発した。この回路は温度センサーで収集した信号を、アナログ−デジタル変換する時に用いる。
研究グループによれば、高速動作の有機半導体CMOS回路と多ビットA-Dコンバーター回路を組み合わせることで、物流管理や環境管理に必要となる温度管理用の電子タグをプラスチックで実現できる。このため製造コストの低減が可能になるという。電子タグはヘルスケアなどへの応用にも期待している。研究成果は、「nano tech 2017」(2017年2月15〜17日、東京ビッグサイト)のNEDOブースに展示する。
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