地デジ放送波でゲリラ豪雨を予測? NICTが開発:ピコ秒精度で伝搬遅延を計測
情報通信研究機構(NICT)は、地上デジタル放送の電波を用いた水蒸気推定手法の開発に成功したと発表した。ゲリラ豪雨など局所的な気象現象の予測精度向上につながることが期待される。
地デジ放送波を受信するだけ
情報通信研究機構(NICT)によると、電波は真空中で高速に伝搬するが、大気中では水蒸気の量によって速度が変化する。そのため、2地点間の伝搬遅延を測定することで、水蒸気量を推定することが可能だ。例えば、距離5kmの伝搬において水蒸気が1%増えると、電波の到着は、光が約5mm進む時間に相当する約17ピコ秒遅れるという。
NICT電磁波研究所は2017年3月9日、この原理を用いて地上デジタル放送の電波(地デジ放送波)の遅延プロファイルの位相から伝搬遅延を求める手法の開発に成功した。測定する位相には、放送局や受信側の発信器の雑音も含まれるが、これらの影響を相殺する手法を開発し、ピコ秒精度の伝搬遅延測定を実現した。
同研究所リモートセンシング研究室 川村誠治氏らのチームは、地デジ放送波の伝搬時間の変化をピコ秒精度に測定することで、水蒸気量を推定する手法を考案。ソフトウェア無線の技術を用いて、小型で安価なリアルタイム測定装置を開発した。実観測したデータを地上気象観測結果と整合すると、より細かい変動をとらえた観測結果が得られたとする。同システムは、地デジ放送波を受信するだけで計測が可能で、新たな送信機などが不要だ。時間分解能も高く、実利用でも1〜30秒ごとに水蒸気量を観測できるという。
従来のGPS(全地球測位システム)、GNSS(全地球航法衛星システム)可降水量やマイクロ波放射計などを利用した水蒸気量観測は、いずれも鉛直方向に観測するものである。川村氏らの研究チームが開発した手法は、最も水蒸気の多い地表付近を水平方向に観測するため、天気予報の数値予報モデルに取り入れて観測を進めることで、ゲリラ豪雨など都市部の局所的な気象現象の予測精度向上につながることが期待される。
今回開発したシステムは、「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)・レジリエントな防災・減災機能の強化」で関東域に多地点展開し、2年間の実証実験が行われる計画である。精度検証や気象予報の精度向上へ調査などを進めるとした。
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