有機系熱電変換材料、最高級の出力因子を実現:膨大な低温排熱を有効に活用
産業技術総合研究所(産総研)らの研究グループは、印刷プロセスで製造できるp型有機系熱電変換材料を開発した。世界最高レベルの出力因子を実現している。
汎用性や耐久性、価格などに優れる絶縁体高分子を採用
産業技術総合研究所(産総研)フレキシブルエレクトロニクス研究センターのインタラクティブデバイスチームで主任研究員を務める末森浩司氏らの研究グループは2017年3月、印刷プロセスで製造できるp型有機系熱電変換材料を開発したと発表した。発電性能を示す出力因子は600μW/mK2と世界最高レベルを実現しているという。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」プロジェクトにおいて、2015年度より有機系熱電変換素子の高性能化に関する研究開発に取り組んでいる。身の回りに存在する膨大な量の低温排熱(200℃以下)を熱電変換し、有効活用することを狙いとしている。
研究グループは今回、有機系材料としてカーボンナノチューブ−高分子複合材料を用いた。カーボンナノチューブを高分子材料が溶解した有機溶媒中に分散させ、この分散液を基板上に塗布する。この有機溶媒を乾燥させれば、カーボンナノチューブ−高分子複合材料を形成することができる。この方法だと、有機溶媒に溶解する高分子材料であれば用いることが可能だという。
また、有機系材料の特性改善に向けた研究ではこれまで、導電性高分子を用いたカーボンナノチューブ−導電性高分子複合材料が主体となっていた。これに対して研究グループは、原料に絶縁体高分子を用いている。その理由として導電性高分子と比べて、汎用性や耐久性、価格などの点で優れていることを挙げた。
今回の研究では、絶縁体高分子のポリスチレンをカーボンナノチューブと混合させると、ゼーベック係数が向上することを見いだした。この要因として、「エネルギーフィルタリング効果」を挙げた。ポリスチレンを添加したことで、カーボンナノチューブ間コンタクトにおける距離が増加し、その部分のトンネル障壁の厚みが増えた。この結果、高エネルギーのキャリアが優先的に電気伝導に寄与し、ゼーベック係数が増加するという。
また、カーボンナノチューブ−絶縁体高分子複合材料中のカーボンナノチューブ束の直径とその特性についても検証した。直径を約20nmから約10nmに小さくしたところ、ゼーベック係数は変化せずに電気伝導性が極めて大きく向上することが分かった。
左がカーボンナノチューブポリスチレン複合材料におけるゼーベック係数のポリスチレン濃度依存性。右は異なる直径のカーボンナノチューブ束を用いたカーボンナノチューブポリスチレン複合材料における、ゼーベック係数と電気伝導率の数値を比較した図 出典:NEDO、産総研他
研究グループは、今回の研究成果を基に、直径が小さいカーボンナノチューブ束をポリスチレンと混合させたカーボンナノチューブ−ポリスチレン複合材料を作製した。開発した材料を評価したところ、約100℃で600μW/mK2の出力因子を観測することに成功した。今回とほぼ同様の印刷法で作製したカーボンナノチューブ−導電性高分子複合材料の最大値と比べて、この数値は2倍を上回るという。
研究グループは今後、材料内部の構造をさらに最適化するなどして、有機系熱電変換材料の性能向上と有機系熱電変換素子の高効率化に取り組む予定である。特に、200℃以下の低温排熱を有効活用できる技術として早期実用化を目指す。
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