二次元半導体、炭素+窒素+ホウ素で作る:ムーアの限界を超える(3/3 ページ)
電子材料として注目を集めるグラフェン。厚みが原子1つしかないため、微細化に役立つ材料だ。ところが、グラフェンには、半導体にならないという欠点がある。これを改善する研究成果が現れた。炭素と窒素、ホウ素を利用して、規則正しい構造を備えた平面状の半導体を合成できた。グラフェンへのドーピングなどでは得られなかった成果だ。
成功のカギは3つあった
バイロイト大学で教授を務めるAxel Enders氏が狙ったのは、確実な合成経路だ。これによって世界初の平面状h-BCNの合成に成功した。
今回の研究チームに属するボストンカレッジのGang Chen氏とShih-Yuan Liu氏は、2015年、別の研究チームとともに「ビスBNシクロヘキサン」(B2N2C2H12)」と呼ぶ低分子の合成に成功している(図4)*3)。Enders氏はこの物質を出発分子に選択、これが合成を成功に導いた最大の要因だ。
*3) 炭素原子が六角形状に単結合するシクロヘキサンと似た形状をとる非平面状の分子。6つの炭素原子のうち、2つが窒素原子、2つがホウ素原子と置き換わっている。窒素、ホウ素とも4価となっていることが特徴。
出発分子の選択の他に、2つ成功要因があった。1つは合成温度、もう1つは触媒*4)。
今回の反応では多数の出発分子が脱水素化反応を起こして、平面状の分子を作り上げる。ビスBNシクロヘキサン1分子当たり、12個の水素原子が反応中に外れる。そして隣の分子と共有結合で結び付く。反応の際の温度条件によって、できあがる分子の構造が変わりそうだ。
実験では予想通りのことが起こった。超高真空中に気化した出発分子を導き、金属イリジウム上で反応を進めた結果、室温(25℃)では均一な物質が得られなかった。生成物を走査型トンネル顕微鏡(STM)で観察すると、図1に示したような六角形状の部分の間にそれ以外の構造が不連続に結合していた。
基板の温度を高めると、400〜1000℃*5)の条件下で、図1のような規則的な構造が得られた。正しい構造が得られたかどうか、最初の判断材料はSTMの観察から得られた。構造の周期が2.6±0.1nmだと求まったのだ。分子の高さは0.14±0.01nm。これは計算上の数値と一致する。
*4) h-BNを合成する際には、シクロヘキサンの6つの炭素原子のうち、3つを窒素原子、3つをホウ素原子で置き換えたボラジン(B3H6N3)を用いる手法が一般的だという。このとき、金属ロジウムや金属イリジウムの結晶面のうち、(111)面を反応基板として用いている。今回の研究でもイリジウムの(111)面を用いた。
*5) 基板の温度を1000℃以上に高めると、図1の構造の間に異なる構造が生じた。
二次元半導体の世界が広がる
理論的な考察から、今回の出発分子を用いて脱水素化反応を進めると、大きく3種類の分子が生成する可能性があることが分かっていた。どれも均一で周期的な平面構造を採る。
1つは、B2C2N2という部分構造と、B3N3という部分構造が単位包を作るもの。単位包の形状は長方形となる。もう1つは単位包がひし形となるもの、最後にB3N3を含まないものだ。
STM像の観察以外にも、低速電子線解析(LEED)や電子バンド構造の分析などから、単位包が長方形となる図1の分子が生成したと結論付けた。
だが、化学的にどの構造なのかを見分ける方法がまだ見つかっていない。図1の構造ではない可能性がわずかに残る。今後は、狙った構造を確実に生成できていることを示す手法の開発が必要だとした。今回の研究成果はh-BCNを合成できたこと自体よりも、物質の構造を同定できたことだと、研究チームは判断している。
合成に成功したh-BCN以外にも半導体として有望な構造が残っている。例えば、h-BC2Nやh-BC4Nといった構造だ。今後は狙ったバンドギャップを備える二次元半導体の合成が進み、半導体素子の試作へと進んでいくだろう。
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