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近代科学の創始者たちに、研究不正の疑いあり(コペルニクス編その1)研究開発のダークサイド(10)(2/2 ページ)

1510年ごろ、地動説のひな型となる論文「小論考(コメンタリオルス)」が生まれる。それを書いたのがコペルニクスだ。地動説の端緒となるコペルニクスの偉大さは疑いようもないことだが、その凄さを強調するあまりに現代では、いくつかの誤りが信じられている節がある。

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プトレマイオス理論とコペルニクス理論の複雑さ

 そもそも、惑星が変則的な動きをしていることが天体観測によって明らかになったことから、単純なモデルでは惑星の運動を定量的に説明することは困難だと見なされるようになった。不等性(変則性)と呼ぶ動きをモデル化して観測事実と一致させ、なおかつ未来の運動を定量的に予測可能にすることが、天体の運動理論には求められていた。


惑星運動の不等性(変則性)。惑星の運動速度が変化する「第一の不等性」と、惑星の運動方向が逆転する「第二の不等性」がある(クリックで拡大)

 本シリーズの第7回で説明したように、天動説の理論をまとめ上げたのは古代ローマの天文学者プトレマイオスである。プトレマイオスは天体観測の結果と惑星運動のモデルを一致させるために、いくつもの円運動を巧みに組み合わせた。

 そのモデルは、地球の周囲に「離心円(あるいは誘導円)」と呼ぶ大きな円軌道を用意し、離心円の上を運動するポイント(架空の点)を中心とする別の小さな円(「周転円」と呼ぶ)の上を惑星が移動するというものである。最初の円がなぜ「離心円」と呼ばれるか。円の中心と地球の位置がずれているからだ。その意味では惑星運動の中心には地球は位置していない。厳密には「地球中心」の理論ではなく、「地球静止」の理論体系である。

 そしてコペルニクスも、プトレマイオス理論と同様に定量的な正確さを実現する、言い換えると惑星運動の不等性を説明するために、いくつかの円運動を組み合わせることとなった。惑星運動はプトレマイオス理論と同様に、誘導円と周転円で説明される。誘導円の中心にあるのは太陽ではなく、地球軌道(地球の周回軌道)の中心(「平均太陽」と呼ばれる)である。厳密には「太陽中心」の理論ではなく、「太陽静止」の理論体系である。


惑星運動モデルの実際とその違い。左は天動説(プトレマイオス理論)の惑星運動モデル。右は地動説(コペルニクス理論)の惑星運動モデル。いずれも、いくつかの円運動を組み合わせたモデルとなっており、左のモデルに比べると右のモデルが簡素化されたとは言い難い(クリックで拡大)

 このようにみていくと、プトレマイオス理論からコペルニクス理論への転換は、幾何学的な複雑さではあまり変わらないように感じられる。実際、プトレマイオス理論で惑星運動を説明するために必要とする円(厳密には天球)の総数と、コペルニクス理論で惑星運動を説明するために必要とする円(厳密には天球)の総数を比べると、コペルニクス理論では数が減るどころか、わずかに増えている(参考:高橋憲一訳・解説、『コペルニクス・天球回転論』、139ページおよび191ページ、みすず書房、1993年刊行)。ちなみに、両方の理論ではおおよそ、34個〜49個の天球が使われた。

 それでは、コペルニクス理論の真の功績と先見性は、どこにあったのか。そしてコペルニクスの理論体系には、現代の研究倫理に当てはめると不正と疑わしい行為があった。それらがどのようなものであったかは、次回以降で説明したい。(文中敬称略)

(次回に続く)

⇒「研究開発のダークサイド」連載バックナンバー一覧

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