超伝導光センサーを応用
産業技術総合研究所(産総研)物理計測標準研究部門量子光計測研究グループの福田大治研究グループ長と丹羽一樹主任研究員は2017年4月、光子を1個ずつ観測できる「光子顕微鏡」を開発したと発表した。従来の光学顕微鏡では観測できなかった極めて弱い光を、明瞭なカラー画像で観察することが可能となる。
光子は光の最小単位で、粒子の性質と同時に固有の波長も併せ持つ。このため、光子のエネルギーを測定すれば、その波長も識別することができるという。産総研は既に、高い効率で光子を検出できる超伝導光センサーを開発している。
超伝導光センサーは、超伝導薄膜からなる光検出部と、光を閉じ込めるための誘電体多層膜で構成されている。極低温に保持された光検出部に光子が入射すると、光子が持つエネルギーによって一時的に超伝導状態が壊れて電気抵抗が変化するという。この変化量で光子のエネルギーが分かり、光子の波長を識別することができる。産総研はこの超伝導光センサーについて、量子情報通信などへの応用を提案してきた。
今回は、光学顕微鏡の光検出器にこの超伝導光センサーを用いることで光子顕微鏡を開発した。開発した光子顕微鏡で被測定物を観察するため、極めて弱い光をレンズ系で集め、光ファイバーを介して冷凍機内に設けた超伝導光センサーへ光子を導くシステムだ。超伝導光センサーは冷凍機内で100mKの温度に維持されているという。
超伝導光センサーに到達した光子を1個ずつ分離検出してエネルギーを測定する。一定時間に到達した光子の数と各エネルギー(波長)から被測定物の色を識別する。被測定物の異なる場所を走査して、測定を繰り返し行うことでカラー画像を得ることができるという。
福田氏らは、新たに開発した光子顕微鏡と、カラーCMOSカメラを用いた一般的な光学顕微鏡を使い、カラー印刷したテストパターンを極微弱光で照らし、撮影性能の比較を行った。この結果、反射光の光強度が微弱な環境だと、光学顕微鏡は色を見分けることが難しかった。ところが、光子顕微鏡では同じ光強度でも赤、黄、青の各色を明瞭なコントラストで識別することができた。この測定環境は0.16fWの光強度に相当するという。
今回行った比較測定では、波長400〜700nmの可視光領域の光子から画像を構成した。開発した光子顕微鏡に搭載している超伝導光センサーは、波長200nm〜2μmと紫外光や赤外光の領域にある光子まで識別することができ、スペクトル測定が可能だという。
今回は、開発した光子顕微鏡を用いて反射光の光子を観察した。今後は、生体細胞からの発光や化学物質の蛍光などを観察していくことで、光子顕微鏡のさらなる有効性を実証していく予定である。また、超伝導光センサーの高感度化や多素子化などにも取り組んでいく計画だ。
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